リクエスト

□キスの理由。
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臨也は盛大に溜め息を吐いた。
池袋に行きたくない。
でも、仕事が絡めば行かざるをえない。
会いたくない、のに。

2週間と3日前。
それが、静雄とセックスをした最後の日だ。

あの日不意に考えた、静雄との関係。
セフレ。
その関係は間違いようも無く、それ以外では喧嘩でしか繋がっていない。
その関係を確認した事はない。
でも、セックスをするだけの仲だと返って来るのは、確実。
重ねた事の無い唇が、明確な印だ。

鏡の前で、いつも通りの顔か確認すると、また零れそうになった溜め息を噛み殺して、臨也は家を出た。



…しかし、思い通りにいかないのが人生って奴、で。


「いーざやくーん、あーそびーましょー?」

背後から響いた声に、一瞬肩が竦んだ。
やっぱり。池袋に来ると、必ずと言うほど奴は俺を見つけるんだ。俺の意思なんて、関係なく。

臨也はどうにか表情を取り繕うと、声の方へ振り返った。

「何、シズちゃん、どっかの映画の真似?」

「は?」

目が合った。
しかし、静雄は武器になるものを何一つ所持していない。
そのままゆっくりと近付いてくる静雄が怖くて、後退りたくなりながらも、それをプライドで必死に食い止める。

――突然、手首を掴まれた。
驚きのあまり静雄を突き倒そうとするも、臨也の腕力が静雄に勝るわけが無い。
引っ張られるがままに、路地に引き込まれた。

「離せよっ」

怒鳴るように叫べば、その視線に牽制され、
そのまま手首を壁に押し付けられた。
痛みに顔を顰める。
しかし静雄は、そんなことはお構いなし、とでも言うように手首を締め付けて、口を開いた。

「犯らせろ」

ずきり、と、心が痛む。
ずっと片想いのまま、なんて、辛い。
乱暴なセックスに酔いそうになる自分が、嫌だ。

「嫌だよ」

「…あ?」

静雄の眉が顰められる。
臨也は虚勢ともいえる態度で、静雄を睨み見た。

「何で俺が、シズちゃんの性欲処理の相手になんかならなきゃいけないわけ?
…ずっと、嫌だったんだけど」

全てが嫌だったわけじゃないけれど。
折角繋がった喧嘩以外の繋がりを絶ちたくなくて、シズちゃんに求められるなら、差し出してきた身体。
それを今絶とうとしているのは、紛れも無いこの自分。



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