リクエスト

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臨也は体調不良、と言う事で、早退する事になった。
静雄の声に出さない圧力に負けたのか、
事情を知らない担任は、臨也を送り届ける仕事を静雄に託した。

いつもは一人で歩く道を二人で歩きながら、臨也の自宅へ向かう。
…ふと、俯いたまま歩く臨也が、呟くように口を開いた。

「…怖かったから、シズちゃんがいて良かった」

安心したような声音に、静雄はただ頷く。
力の意味もあるが、誰かいる、という意味の安堵もあるのだろう。

「言えばついて行ってやるから、いつでも言え」

「…ん」

帰り道に交わした言葉は、たったそれだけ。
でも、何時もの不穏な空気が漂うわけでもなく、同情の空気でもなく、気まずい雰囲気な訳でもない。
隣にシズちゃんがいる。
そんな安堵感だけが、胸を温かくした。



臨也の自宅に着き、二人はほぼ同時に立ち止まった。

「じゃあ」

そう言って静雄は、歩き去ろうと踵を返した。
…不意に服が引っ張られる感覚がし、何かと振り返る。
と、静雄のシャツの裾を掴み、俯く臨也の姿があった。

「どうしたんだ?」

まだ何か言う事があるのだろうか、と思いながら問い掛ける。
臨也は、僅かに無言の時間を挟み、俯いたまま、口を開いた。

「帰らないで」

くい、と服を引っ張る力が僅かに強くなる。
どきん、と胸が跳ね上がった。

いつもは苛立つくらい高慢な態度をとるくせに、どうして、突然。
もう家に着いたんだから、心配も要らないはず。
そう思いながらも、静雄は臨也に引かれるままに、マンションへ入っていった。



「お邪魔します…」

僅かに緊張しながら、臨也に続いて玄関へ上がった。
リビングへ入り、そのままソファへ座ると、臨也は荷物を置きにリビングを出た。

馬鹿みたいに跳ねる心臓が鬱陶しい。
何に緊張しているのかすら定かではないが、多分、先刻の台詞のせい。
帰らないで、なんて。
精神的にかなり滅入っているのだろう、そう思うことにした。



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