リクエスト

□Kiss my Dream 1
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臨也が落ち着いた頃、静雄は遠慮がちに、何があったんだよ、と問い掛けた。

「…何も無いよ」

ベッドで上半身を起こして座る臨也は、僅かに震えた声でそう答える。

「何も無いわけねぇだろ」

静雄は焦燥を滲ませながら、視線を俯けて拳を握り締める臨也に言った。

腹部には殴られた痕とキスマーク。
うなされていた挙句、起き上げは静雄を認識できず酷く怯えた。
こんな状態で、誰が「何も無い」という言葉を信じるだろうか。


「…言えよ、誰に言うって訳じゃねぇから」

静雄の静かな声が、二人きりの保健室に響いた。

自分のことでなければ、自分でも非道だと思うが、どうでも良かった。
自分に危害が加わるわけでもないし、聞いて巻き込まれる気も無い。
相手が心配だったとしても、相手が拒否するなら無理に訊こうと思わなかった。
…なのに、心配で心配で、堪らない。
臨也に危害を加えた誰かが、憎くて憎くて、仕方が無い。


「俺を馬鹿にしたいの?」

不意に臨也が呟いた。
そんなことはない、そう否定しようと口を開くものの、臨也が続けて言葉を紡ぐ。
自嘲を交えた笑みを浮かべて。

「いいよ、話してあげる」

明るい声。なのに、痛い。
どうにか先刻の否定の言葉を告げようにも、
口を開くのを許さない、と言った様子で、臨也は事の成り行きを話し始めた。




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