60万打小説

□君を殺すまで
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「シズちゃんは、いつか俺を嫌いになってね」

「は?」

臨也の唐突な言葉に、静雄はあからさまに顔をしかめた。
勿論、そんな反応が返ってくると思っていた。けれど、いざ期待通りの反応が得られると嬉しいもので。
小さく微笑み、臨也は静雄の眉間に寄った皺を指で押した。

「変な顔」

「喧嘩売ってんのか」

苛立ちを孕ませた声に、そんなことないよ、と臨也は笑った。
その笑顔を見た静雄は、眉間の皺を浅くすると臨也の目をじっと見る。
なんとなく込み上げてきた気恥ずかしさに指を離して、どうしたのと問いかければ、静雄は口を開いた。

「何か手前、最近変だ」

どきりとしてしまった。すっと胸が冷たくなった気すらした。
それを誤魔化すように、臨也は唇をいの字につり上げる。

「変って、シズちゃんに言われたく…」

「無理に笑うな。それが変って言ってるんだよ」

静雄の指が臨也の頬をつねった。ほんの少し痛い、手加減された指。
作り上げた拙い笑顔すら、その指の温度に簡単に溶かされる。
ああもう、好きだ。好きで好きでたまらない。

「シズちゃんは、ずるい」

「あ?」

頬をつねる指が離れて、親指が優しく撫でた。じわり、甘い感覚が胸に染み込む。
けれどその手には返さず、臨也は静雄を力なく睨み付けた。

「これ以上、好きにさせないでよ…」

離れられなくなってしまう。ずっと傍にいたくなってしまう。
俺なんかがシズちゃんの隣にいても、いいことなんかないのに。この先、幸せなんかあげられないのに。

「何言ってんだよ」

目を丸くしながらも頬を僅かに赤らめた静雄に、臨也は吐息にも似た微笑を溢す。
触れたら壊れそうな、悲しげな笑顔。
思わず黙った静雄に、臨也は小さく頷いた。

「俺は、いつかシズちゃんと別れるから。もしシズちゃんが嫌がっても、絶対にシズちゃんから離れるから。
だからこれ以上シズちゃんを好きになりたくない」

臨也の囁くように紡がれた声に、静雄は急に真剣な顔になる。
見ていられず顔を逸らせば、静雄は臨也の手を握った。

「…どういうことだよ、それ…」

「シズちゃん、手、痛い…」

小さく漏らせば、焦った様子の静雄は手の力を緩める。しかしそれは離されず、ただ触れているだけのような体温が手を掴んでいた。
まるで手に取るように分かる静雄の感情に、愛されているのだと改めて感じる。それが余計に胸を苦しくさせるのに。

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