60万打小説
□君を殺すまで
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「昨日静雄さんが女の人と歩いているのを見かけたんですけど、恋人なんですかね?」
見るからに初そうな高校生の言葉に、臨也は思わず固まった。
そんな臨也の様子に、帝人はことりと首を傾げる。
「静雄さんって力があって怖がられてますけど、そんなに悪い人じゃないと思います…」
おずおずと言った帝人の声に、臨也はハッと我に返った。いきなり黙りこめば、不自然だったに決まっている。
臨也は平然を装うように笑みを作り上げると、帝人を笑った。
「君は分かってないよ。あの人智を超えた怪力を直接振るわれたことがないからそう言えるんだ」
分かってない。シズちゃんの気の短さがどれほどのものかも、そのわり色恋事になるとそんなのも消え去ることも、それからその優しさがどんなものかも。
俺だけしか知らない。知られたくない。
知られたく、ない。
「それはまぁ、ないですけど…でも少なからず、静雄さんは皆が抱くイメージよりは優しい人だと僕は思います。
だって、女の人と歩いている静雄さん、すごく穏やかな顔してたし、女の人も怖がってる感じは無かったし」
当たり前。シズちゃんが女に暴力なんか振るうはずがない。
確か一昨日、小さい頃から仲のいい従兄弟が遊びに来ると言っていた。きっとそれが、今帝人の言っている女性だろう。
けれどわざわざそんなことまで言うのも、意地を張っているように思えて憚られる。
君ごときに何が分かるんだ。出会ってからの年月も、関係の深さも違う君に。
「それに、なんかお似合いって感じでした」
僅かに頬を染めながら言った帝人に、臨也は唇を噛み締めた。
悪気はない。むしろ、周囲に黙ってこの関係を続けているのは自分たちだ。
「…そう」
呟くように返せば、帝人は静雄の話題を出さない方が良かったかと思ったようで、すみません、と小さく謝った。
信じているんだ。
シズちゃんが俺を裏切ったりしないことも、愛してくれていることも、中途半端な感情でこんな関係を続けるような奴じゃないことも。
全部全部分かってて信じてて、だからこそ俺もこんなに愛しくて満たされた気持ちになる。
そんな優しいシズちゃんだからこそ。
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