50万打小説
□君を失いたくない
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「静雄、来ねぇな」
門田の言葉に、臨也は廊下の向こう側を見ながら頷いた。
シズちゃんは本当に間抜けだなぁ、そんなことを思いながら、移動した特別教室にいたのだけれど。
静雄が来ないまま、チャイムが鳴り響いた。
流石にこれはおかしい。距離があるわけではないから、何の問題もなく戻ってこられるはずだ。今更道を間違えたりもしないだろう。
じゃあ何処で立ち往生しているのだ。
――ふと蘇ったのは、静雄が助けてくれた日のこと。
あの日もそう。すぐに戻るはずだった臨也は、此方を恨む先輩に捕まった。
…もし、その先輩たちの怒りの矛先が静雄に向いていたら?
ふと過った言葉に、臨也はブンブンと頭を振る。幾らなんでも考えすぎだ。そうに決まっている。
…でも。
先生が来て、起立、と号令がかかる。
しかし臨也はそのまま、教室を飛び出した。
もしかしたら、先生に捕まって咎められているとか、教科書がすぐに見つからなかったとか、そんな理由かもしれない。
そう祈って臨也は教室まで走ったけれど。
「いない…」
もぬけの殻の教室は、静雄の気配もない。
息を切らしながら、別のルートで帰ったのかと僅かに遠回りになる道を選ぼうとした時。
廊下に教科書が落ちているのに気がついた。
見覚えのあるこの教科書は、今からの授業で使うもの。
ドキドキと高鳴る胸に、考えすぎだと祈りながら名前を見た。
…しかしそこには、平和島静雄、と擦れた油性マジックの名前が書かれていた。
きっと、あいつらだ。
俺を連れ去ってシズちゃんをボロボロにしたあいつら。
臨也は歯を食い縛ると、教室を駆け抜けた。
あの日自分を助けてくれた静雄を、今度は自分が助けるために。
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