50万打小説

□世界のために
2ページ/4ページ


「シズちゃん」

休み時間に入り、不意に臨也に呼ばれた。
返事をするのに躊躇わなくてもいいことがどれだけ幸せなことかと、今更になって思う。
何だ、と返し臨也を見れば、臨也はほのかに笑って言葉を紡いだ。
あまりに唐突で、あまりに衝撃な一言を。


「今俺にとってのシズちゃんはただの人間。だから――愛してあげられるよ?」


まるで全てを見透かしたような言葉。鼓動は爆発したみたく跳ね上がる。突然すぎて、咄嗟に反応も出来ない。
臨也が何を思って前触れもなくそんなことを言ったのかは分からない。
――けれど、これだけは分かる。

「――俺は、そんな理由で手前に愛されたくない」

人間だから。そんな理由で愛せる愛せないを決められたくはない。たったそれだけで、周りと平等に扱われる権利など得たくないのだ。
…それに、この言葉を受け入れたとして、再び力が戻ったらどうなる?
また今までのように喧嘩仲に戻るというのか。
そんなの堪えられないじゃないか。好きな相手と少しでも親しくなったと思えば、不可抗力に再び逆戻りさせられるなんて。
途端に流れた沈黙は、周囲の話し声に呑まれていく。
結局、互いに何も言い出すことが出来ないまま、次の授業が始まってしまった。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ