50万打小説

□たとえ世界を失うことがあろうとも
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校舎内を探すも居らず、外を回ってみることにした。
流石に学校を出てはいないだろう。もしここで見つからなくてもまた校舎内を探そう。門田も岸谷もいるんだから。
そう考えて焦る心を落ち着かせながら、静雄は部室棟から端の体育倉庫まで探してみることにした。


武道場を探し終えた頃には、昼休みも終わりを迎えようとしていた。
もしかしたら教室に戻っているかもしれない。門田たちに連絡が入っているかもしれない。
そんな望みをかけて、教室に戻ろうかと思った時。

不意に静雄の目に、体育倉庫の前に居座る先輩二人の姿を見つけた。あの顔は何となく見覚えがある。つい先日、静雄が人間離れした力を失う原因になったかもしれない喧嘩をふっかけてきた輩の内の二人だ。
さっさと立ち去るのが最善――そう思ったのだけれど。
もし臨也がこの辺りを通ったなら、尋ねれば何か分かるかもしれない。短ランに真っ赤なシャツなんて、珍しいこと他ならないのだから。

静雄は意を決して近づく。思い切り睨まれ、喧嘩を売っているのかと言ってやりたくなりながらもそれを押さえ込んだ。ここでキレても意味がないし、今のままでは敵わない確率が高い。
何だよ、と警戒心で満ちた声をかけられ、静雄は出来る限りの丁寧な言葉で問いかけた。

「臨也を…短ランで赤いシャツ着た奴、見なかったすかね?」

静雄の言葉に、二人はチラリと視線を交わす。それから、知らないな、とあっさりと返事が返ってきた。
勿論疑わしいとも思ったけれど、一応先輩なのだから、嘘じゃないかと問うのも憚られる。
自分を納得させて、立ち去ろうと踵を返した時だった。

ふと、聞き慣れた声が耳を掠めた。
反射的に辺りを見回すも、周囲に人はいない。
――もしかして。いやでも、まさか。
半信半疑で向き直れば、先刻の二人は倉庫を楽しそうに見やっていた。
かたん。今度は音が響く。それも、体育倉庫から。

ゴッ
鈍い音が鳴った。不良めいた先輩の片方が、驚愕した顔で横凪ぎに倒れ込む。もう片方がテンポが遅れて振り返れば、そこには先刻立ち去ったと思っていた男の姿があった。
――けれど、先程までとは放つ空気が決定的に違う。
そうだ、こいつは平和島静雄。あの、人知を超えた怪力の持ち主。
…けれど、恐怖に震える彼の隣に倒れた男は、フラフラしながら上体を起こす。

「痛ぇじゃねぇか手前!!」

「…は?」

恐怖に呆気を交えた彼に対し、殴られた本人はフラフラしながら立ち上がった。脳震盪でも起こしているのだろう。
静雄はきゅっと目を細めて拳を見つめると、目の前の二人を破るべく睨み付けた。

もしこの二人が何も悪くなくても、自分は知ったことではないのだ。
どんなに力がなくても、どんなに殴られたとしても、自分は平和島静雄に変わりないのだから。


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