50万打小説

□たとえ世界を失うことがあろうとも
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「力がなくなった?」

臨也の素っ頓狂な声に、静雄は高鳴る胸を抑えながら頷く。
暫く思案したように視線を翳らせた臨也は、それから笑った。清々しく、綺麗と形容するに申し分ない顔で、声で。

「力がないシズちゃんに興味はないよ。
まぁ、元から大嫌いだったけどね」

息が止まる。胸に刺さる痛みは、ナイフなのか彼の言葉なのか。
がらがらと足元から世界が揺れて、崩れて、落ちて――


今朝は、酷い夢を見た。
臨也から大嫌いだと笑われる夢。
そんな、今までにしてみればありふれたような夢が、静雄の心を詰る。
自分は少なからず、この夢にショックを受けているのだ。臨也に突き放され、そのまま失ってしまったことを。

『――もし、臨也と世界とが天秤にかけられていたとするよ。』

ふと思い出された台詞は、つい昨日に聞いた新羅のもの。臨也と世界どちらを助けるか、というよく分からない質問だった。
今も、話を聞いたときも、考えたけれど。
少なくとも、世界を助けることが正義なのだと思う。
世界を滅するよりも、一人居なくなる方が自分も幸せなのだ。それが臨也なら、なおのことだろう。
…でも喉元に残る妙な気持ち悪さは、臨也の笑顔を脳裏に色濃く刻み付けるだけだった。



「臨也、遅いね」

広げた弁当を啄みながら、新羅が事も無げに呟く。そうだな、と相槌を打つ門田に対し、静雄は下唇を噛み締めて俯いた。
後から行くと言って行き先も告げずに教室を一人で抜けていった臨也が帰ってこないまま、20分が経った。昼休みも後半へ入ろうとしている。
故に、教室で昼食を取る3人だったけれど。

「静雄、食欲ないな」

「そうだよね。何時もなんかすぐ食べ終わるのに」

門田と新羅の言葉に、静雄は自分の食が全く進んでいないことに気がついた。
確かに今日はあまり食べる気にならない。いつもなら楽しみであるはずの昼休みを何となく迎えて、何となくこの輪に入っているだけで。
ああ、と小さく返事をして、食べかけのパンをゴミ箱に捨てた。食欲が無いのに手に持っていても、どうせ進みやしない。
…と、不意に新羅が当たり前のように口を開いた。

「静雄、先に食べ終わったなら臨也を探しに行ってきたら?」

「…は?」

その言葉に思わず硬直した。今の二人の関係を分かっているだろうに、何故そんなことを言うのだ。会っても気まずいに決まっているのに。
そう考えて新羅を睨むも、二人の間にいた門田まで、行ってこいと言い出した。
何を考えているんだ、そう思いつつも――静雄も、心配ではあった。

用事は知らないにしろ、臨也も他人から反感を買いながら生きている奴だ。臨也を恨んでいる奴も少なくない。
勿論、臨也が簡単にやられたりはしないと思うけれど。
もし、相手が数がいたら?一対一は問題なくとも、一対三だったら?

一度思えば、よくない考えが頭をぐるぐると回りだす。心配する必要なんかないだろ、そう顔を歪める自分は、何処か辛そうで。
ほら、行ってきなよ。新羅の声に渋々を装って立ち上がると、静雄も教室を出た。


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