50万打小説

□君のために
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平和島静雄の一日は、毎日のようにこうして始まる。

「臨也くんよぉ…」

「あ、おはようシズちゃん。何、朝っぱらから不機嫌な顔だね、そんなだと今日一日良いことないよ?」

「ああそうだな、手前のせいでな!!」

頂点に達した苛立ちに静雄が頭上に掲げたのは、重さ数キロは優にある教卓。
犬も、況して狼すらも逃げ出しそうな覇気を背負う静雄に対し、折原臨也は慣れたように口元を笑みに歪ませる。

「やだなシズちゃん、そんなに毎日怒ってたら早死にするよ?まぁ俺はその方が嬉しいけどね」

「――っ殺す!!」

そんな口論をするや否や、騒然とする教室を置いて、二人はその場を走り出ていった。二人の喧嘩に慣れたものな新羅と門田は、また今日もか、と呆れたように笑うだけなのだけれど。


平和島静雄は人並み外れた怪力の持ち主。
折原臨也は人間が好きだと豪語する疑惑だらけの博愛主義者。
二人はひょんなことで同じ高校に進学し、共通の知り合いを通して出会ってしまった。
毎日のように、喧嘩喧嘩喧嘩。静雄が落ち着いて過ごせる一日など皆無に等しい。
静雄だって、出来ることならば名前のごとく平和に静かに過ごしたいのだ。それが出来たらどんなに幸せだっただろう。
誰に言っても大抵信じてもらえないが、静雄は暴力が嫌いなのだ。出来れば誰も傷つけず、自らも傷付かず、大人しく日々を過ごしたい。
けれど、臨也がいる限る無理だ。静雄がいくら平穏に過ごそうとしても、臨也が当たり前のようにそれを拐っていく。
勿論それに対抗するにはこの怪力が必要なことも重々承知しているのだ。
――だからきっと俺は、これからも否応なしにこの力と付き合っていかなければならない運命なのだろう。


…けどどうせ、この力がなくなれば、臨也に相手にされなくなるんだろうけどな――
静雄はぽつりと呟いて、教卓を担いだまま臨也に撒かれた校庭を歩く。
どこに行ったんだ、と臨也のすばしっこさを恨みながら、辺りを見回せば。
一瞬黒い影が、校舎内を横切った。
臨也だ。そう認識し、追いかけようと意識を向けた時。

があん、と頭に酷い衝撃が走った。何が起きたか分からない。分からないが、身体から力が抜けるように、教卓が肩にずっしりとのしかかった。
揺らぐ意識は再び打ち付けられ、静雄は地面に倒れ込む。
痛い。今までこんなに身体が痛むことがあったか。そう困惑する意識の中見えたのは校内で度々見る不良じみた輩で。
静雄の背にバットが振り上げられ、そこで意識は途絶えた。


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