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□リリシズムな唇
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「暴力で生徒指導なんて、学校も間違ってるよね」

「あぁ!?手前が悪いんだろうが!」

生徒指導室には、そんな会話が毎日のように響く。
それもそのはず。短ランに中着は赤いシャツという、校則破りの常習犯がいるのだから。

「だって、校則なんか破るためにあるものだと思わない?そんな風に縛られて良い気する生徒なんかいないし」

「折原ほど大っぴらに破ってる奴は少ねぇけどな…」

「自分に正直なんだよ、俺は」

そう言って楽しげに笑った折原臨也は、顔をしかめる生徒指導担当にあたる平和島静雄の胸ポケットに手を伸ばした。
そこには、校内では禁止の煙草が一箱。

「先生も、此処で煙草吸ってるくせに」

「…うっせぇな」

「ま、暴言が当たり前の時点で、教師の風上にも置けないけどね」

そう言った臨也は、静雄のポケットから箱を抜き取る。静雄は手を伸ばして取り返そうとしたけれど、その手は紙一重でかわされ、煙草はそのまま臨也のポケットに仕舞われた。
再び手を伸ばすも、臨也は綺麗な顔に笑みを浮かべてひらりと静雄から一歩離れる。

「これは没収だね、平和島君。校則違反じゃないか」

悪戯っ子のように偉そうに言って、臨也は白い指を伸ばした。
その指は静雄の唇を何処か艶かしくなぞる。ずくり、と胸が疼くのはいつものこと。
臨也は頬を赤らめて、やっぱり綺麗に笑う。けれど、先刻よりもはにかんで、愛らしく笑う。

「口寂しいなら、誰かとキスでもしたらどうかな、平和島君」

ああもう、可愛い。

「手前がしてくれるんなら、な」

「――我が侭だね、君は。」

そう囁いて、臨也は唇を重ねた。
柔らかな温かい唇。その感触にそそられないはずがなく。
更に深いものを求めるように、その唇を舐めれば。

キーンコーンカーンコーン…

「……ほら、早く行け。遅れるぞホームルーム」

「えー…キスは?」

「後だ、後」

チャイムのタイミングの良さに溜め息を吐きたくなりながらも教師として急かせば、臨也は赤い唇を不満げに尖らせた。
まるで誘われてるみたいだと思うも、この行為は無自覚でやっていると知っているから何だか惜しい。
臨也は不満そうにしながらも廊下へと続く扉を開いた。

「また放課後に来るからね。二人っきりの教室、見つけておいてよ」

「それまでにその格好直しておけよ」

「無理に決まってるだろ。じゃあね先生」

ニコリと笑って去っていった臨也に手を振り、静雄はそのまま溜め息を吐いた。

臨也は静雄の勤める学校の生徒だ。
そして、静雄の恋人でもある。
教員と生徒の恋など許されるものではないことも自覚してはいるし、年齢も8つも離れている。勿論、先刻の口付けを見られでもすれば誤魔化しなど出来るはずもない。
けれど、愛しくて仕方ないから。
他に誰もいない教室で、臨也の生徒指導という形で二人きりになり、ああして口付けを交わすのが日課になっていた。

いや、でも生徒指導もしてるよな、俺…
自分を納得させるように頷いて、胸ポケットに手を伸ばす。
しかし先刻臨也が煙草を取っていったことを思い出し、ああ今日はイライラしながら一日を過ごさないといけないのか、と一人頭を掻いた。


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