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□僕は君と恋をする1
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「この子はサイケ。津軽と同じ人工知能のロボットだよ」

サイケの隣に立つ、知らない男の人が言う。
何故だか分からないけれどその男の人が怖くて、サイケは目の前の青年に駆け寄りその背に隠れた。隣にいた黒い服の人よりも、この見たことのない綺麗な服を着ている青年の方が、幾分怖くない気がして。

「へぇ、臨也さんと同じ顔ですね」

青年はそう言って、サイケの顔を覗き込んだ。赤みがかった硝子玉のようなサイケの瞳に、綺麗な金色の髪が映る。初めてこんなにも綺麗な色を見た気がして、サイケはじっとその髪を見詰めた。
青年は優しげにニコリと笑って、イザヤサン、と呼ぶ黒い影へ向き直る。

「臨也さんと同じ顔なはずなのに、全く同じに見えないです」

「ハハッ、まぁね。中身の問題かな。
ああそう、サイケはこの部屋からは出られないから、津軽しか遊んであげられる相手がいないんだ。だから、仲良くしてあげてね」

「え、臨也さんは忙しいんですか?」

「いや、俺とは親しくならないように設定してあるから、実質サイケには津軽しか頼れる相手がいないんだよ。
ほら、今だって、サイケは俺に寄り付こうとしないだろう?」

にこりと笑った臨也の顔は、サイケも綺麗だと思った。けれどやっぱり恐怖が勝って、此方に目を向ける青年の服にしがみつく。
そんなサイケを笑いながら、臨也は手を振って部屋を出ていった。

先刻臨也が言っていたように、サイケは人工知能の機械だ。
彼の手によって造られ、3日前起動した。
何一つ分からない中、「はじめまして」と笑った黒い姿はただただ怖くて、でも彼しか頼れる人はいないのだと泣きたくなって。
――そして、この人に出会った。

「サイケ、だったか?」

問いかけられて、サイケはこくりと頷く。そうか、と笑った彼の笑顔は胸に優しく染み込んで、笑顔は安堵するものなのだ、と初めて知った。
そうすれば、先刻まで不安でいっぱいだった胸に好奇心が生まれる。
この人の名前は何だったろう、と。

「なまえ…」

唇から零れた自分の声は、目の前の彼よりも細く高い。それでいて、あの黒い人に似ていて少し気に入らない。
彼の気に障っていないだろうか、と俯きつつ見上げれば彼は、可愛い声だ、と笑い、それから低く通る声で言った。

「俺は津軽だ。宜しくな」

「つがる…よろしく?ともだち?」

思わず尋ねれば、津軽は照れ臭そうに笑った。
そうだな、友達だ。言葉と共にぽんぽんと頭を撫でられて、掌の暖かさと優しさを知った。
ずっと撫でられていたい。目を閉ざせば胸の奥が溶けるような、もどかしい気持ちになる。
そのまま、津軽に擦り寄った。


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