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□唇プレリュード
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「手前、目悪いのか?」

学校に着いて早々、静雄に掛けられた声に、臨也は荷物を整理しながら、まぁね、悪い?と挑発するようにレンズ越しの静雄を横目に見やる。
横から入ってきた新羅は、久しぶりに見た、と目を瞬かせた。

臨也は元々目が悪い。とは言っても、遠くの物が霞んだり、黒板の文字が見え難い程度だ。
中学の頃は眼鏡をしていたが今はコンタクトのため、目が悪いことすら知られていないことが多い。勿論それは、喧嘩を頻繁にする静雄も然り。
というわけで、今こうして驚かれているわけである。

「どうしたの?今日。コンタクト失くしたとか?」

「違うよ。昨日夜更かししたら今朝目の調子が悪かったから眼鏡で来ただけ」

「自業自得だね」

「…まぁね」

相変わらず面倒な奴だ、と心中で毒づきながら、先刻から黙りっぱなしの静雄を見やった。
臨也が眼鏡をしているのが見慣れないせいか、静雄はこちらを凝視している。目が合えば、ぷいと逸らされた。

「何?シズちゃん、とうとう頭がイカれた?」

「っ、なわけあるか」

そう言うや否や、静雄は席を立つ。何かされるだろうと、ポケットに入ったナイフに指を滑らせた。
――しかし、静雄は臨也に目をくれることなく扉へ向かう。

「授業始まるまでには戻って来いよ」

門田の声を背に、静雄は教室を出て行った。それを見届けた臨也は、思わず門田に尋ねる。

「今日シズちゃん何かあったの?」

「さぁ…聞いてねえけど」

「でも明らかにおかしかったよね。臨也の挑発効いてなかったし」

おかしいのは元からだけどね、と相槌を打ち、臨也は下がりかけた眼鏡を掛けなおす。
中学の頃は慣れていたものでも、しばらく使っていなければ妙に不慣れな気がしてしまう。
眼鏡が下がることがこんなにも気になるものだったかと一人思っていれば、偶然門田と目が合った。流れでにこりと笑って見せれば、門田も照れたように笑い返す。
――と、不意に新羅がぽんと手を叩いた。

「眼鏡だからだよ!」

「…何言ってるの、新羅。頭大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちゃんと聞いてよ臨也」

まるで新たな遊びを見つけた子供のように楽しそうに言った新羅に、仕方なしに臨也は黙る。門田も、呆れの中に興味を孕ませながら新羅を見た。

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