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□水面の月
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自宅に着き、扉を閉める。
そのまま、ずるずると玄関に踞った。

俺は、彼が嫌いで。そう、世界で、宇宙で一番大嫌いで。いつもの喧嘩は、そんな彼に迷惑をかけるための暇潰しで。
そうだったはずだ。その方が自然だ。
今まで、そうだと思っていた。

すき ?

突然、化けた。
まるで、青年が満月の光で狼男に変身するかのように、唐突に。

「…んだそれ、」

無理矢理笑顔を作ろうとすれば、結果嘲笑になった。
誰が信じられる?今まで恋という名の恋をしたことが無かった俺の、嫌悪という感情が恋だったなんて。しかも、男相手に。

胸はきゅうきゅうと痛んで、苦しかった。



――しかし、幾らそんな感情に気づこうと、彼との関係が変わることなど無い。

「臨也ぁああ!」

ほら、また今日も。
こんな感情伝わるはずがない。伝えられるはずがない。
…分かってるのに。気持ちが落ち着くまで、いつも通りでいればいいのに。
いつも、どんな風に接していた?何を考えて喧嘩していた?
それが、分からない。まるで、初恋をした思春期のうぶな学生みたいに。

何も言えず黙って走っていれば、不意に静雄の腕が臨也の腕を掴んだ。驚いた瞬間には既に身体を引っ張られ、臨也は抵抗すらままならないまま路地裏へ連れ込まれた。
だん、と壁に身体を縫い止められ、臨也は一瞬苦悶の声を漏らす。
勝手に高鳴る胸が煩わしくなりながら静雄を見上げれば、まだ何も言っていないというのに酷く苛立った表情をしていた。
ずきり、胸が痛みを催す。

「…何、まだ何も――」

「手前、何か隠してるんだろ」

ばっくん、と跳ね上がった鼓動。
――確かに、これだけ白々しければ、疑われても仕方がない。
臨也は気まずさに視線を逸らし、震えそうな声を漏らす。呼吸すら満足に出来ないほどに喉が詰まった。

「別に、隠してないよ。俺にも色々あるの。シズちゃんには、関係ないだろ」

「なら、何で普段通りじゃねえんだよ」

「ッ、シズちゃんの知らない人だよ!もう、いい加減にしてよ!」

そうやって掘り下げないで。ふとしたら口が滑ってしまいそうだから。嘘で固めないと、怖いから。

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