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□水面の月
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何の因果だったか運命だったか、俺は彼と出会ってしまった。
お互いに知り合ってから数年。相も変わらず喧嘩三昧な二人は、犬猿の仲という言葉では片付けられない悪友を続けている。

彼との喧嘩は嫌いだ。嫌いだけれど、止めたくない。
輪郭の曖昧なその感情が片付けられないまま、暇潰しという言葉を借りた。借りたまま、もう幾らか過ぎていた。
この感情は、無理矢理型に嵌めたままでいるものだと思っていた。



「シズちゃんも暇人だね!俺は早く君から逃げたいんだけど!」

「じゃあさっさと池袋から消えろ!」

二人の走り回る街は既に陽光は消え、すっかり夜の帳を下ろしている。街の光に遮られて、星の光は濃紺に埋まっていた。
人気も大分減った池袋に二人を隔たるものは殆ど無く、臨也は街中で立ち止まると振り返った。
後ろを追っていた静雄も立ち止まる。その手には凶器と化した標識が握られていた。勿論、臨也の手にもナイフが握られている。

「手前、人を苛立たせるのが趣味なのか?じゃなきゃこんなに苛立つはずがねぇだろ?」

「やだな、シズちゃんが怒りやすいんだろ?早死にすれば良いのに」

馬鹿にしたように笑って――
不意に、チカリと目映さを感じた。
何なんだ突然、と眼を向けた先には、満月の姿があった。珍しいわけでもないのに何を、と思い、気づく。

月。
満月の光がそこに宿ったかのよう。
金色は闇夜に映え、ネオンさえも遮れない月光に照らされ更に目映さを放つ。
――静雄の金に染められた髪は、月のようだった。
都会の喧騒に浮くやけに幻想めいたその光景は、彼が人間離れしているという事実を一層に際立たせる。
どきり、どきり、騒がしく心臓が暴れる。

いつまでも見ていたい。この光の情景を。
彼という、あまりにも稀有な存在を。

暇潰し。
そんな型に嵌めていた曖昧な輪郭の感情は、不意に膨らんで形を持ち出す。型はからんと弾き落とされ。

ほう、と腹を押されたように息が零れた。胸がぎゅうと苦しくなる。
――何だよ、という苛立ちを露呈させた声に、臨也は現実に引き戻された。
胸はいつまでも苦しかった。輪郭を持った感情は、悪戯に臨也の精神を揺らがせる。

「おい手前、なにぼんやりしてんだよ」

「っ、ぼんやりなんかしてないよ」

臨也は震えそうになった声を押し殺して、再び走り出した。待て、と静雄の声が付いてくる。
しかし臨也は、その後静雄を撒くまで足を止めなかった。更に、駅まで走った。自宅まで、胸が勝手に急いて堪らなかった。

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