1周年小説

□恋は曲者
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「待て臨也あああああ!!」

池袋中に響き渡るような怒声は、通行人の肝を冷やせど目の前の臨也には何一つ恐怖心を与えていない。
負けず嫌いだからか、臨也にとっての自分という存在のちっぽけさを思ってしまうからか、それが妙に悔しい。
更に速度を上げて、路地裏を走り抜けようと建物の角を曲がった臨也に合わせて、看板を片手に曲がった。
…そこで、二人の表情は一変する。

「行き止まりだな」

「っ…」

通行禁止の看板に、静雄の背丈を越す程のフェンスが、臨也の向こうには置かれていた。
一気に有利な状況に変わった静雄に対し、臨也は静雄を睨み付けると、今の不利な戦況などまるで感じさせない笑みを浮かべて、ナイフを静雄へ向けた。

「行き止まりなら勝てるなんてそんな間違った知識、どこで学んだの?」

「その減らず口、捻り潰してやるよ」

臨也が想い人だとか、そんなものは喧嘩になれば関係なくなる。
…どうせ本気でかかっても、臨也と勝ち負けの決着がつく確率など皆無に等しいのだけれど――
そう思った自分の弱さに歯噛みして、臨也へ看板を振り上げた。
投球フォームにしては荒々しい静雄の手から、看板が勢いよく投げられる。
しかし臨也はそれを上手く避け、静雄が看板を投げた勢いを殺せないのを見計らって静雄の横を走り抜けた。
…しかし。

逃がすものか、と腕を伸ばし、臨也の腕を捕らえた。
だが、身体は慣性の法則に逆らうことが出来ず。

「シ…!?」

「うおっ…」

そのままバランスを崩した静雄は、衝撃に目を伏せたままアスファルトに倒れ込んだ。
背中から落ちたため、強か腰を打ち付けたが激痛を催す程ではない。
…そして、何故か腹部辺りに重みを感じる。

パッと目を見開いた先にあったのは、真上に広がる真っ青な空と。

「最悪!手離せ!」

僅かに赤い、焦った臨也の顔。
近い。近い。何で、何が。
頭のネジが何処かに飛んだように思考がリフレインする。
――それと同時、静雄は無意識のうちに臨也に手を伸ばしていた。

「ん――っ」

臨也の喉から小さな声が漏れた。
唇は柔らかく暖かい。臨也の顔が、近すぎて逆によく見えない。
…ああ、キスだ。
誰からキスしたんだ?…俺…だよな。
俺から、臨也にキス……?

ようやく状況を理解し、その瞬間に静雄は臨也から唇を離した。
――しかし静雄の目に映ったのは、真っ赤になった臨也の呆けたような顔で。
…つうか、今更止めて弁解しても――。

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