1周年小説

□画竜点睛
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そんな消化できない思いを抱えたまま、臨也は体育の授業を受けていた。
冬の時期恒例な持久走。臨也は重い思考を振り払うように、足を進める。
走っている間くらいは、何も考えずにいられるかと思えば、そうでもないらしい。
――シズちゃんに追いかけられてるときは、無駄な思考なんて省けたのに。
ただ、静雄のあまりに素っ気ない態度と、それを思うと胸がぎゅうと苦しくなる自分の異変とで頭がいっぱいになって。

…そこで、事実が胸に突き刺さった。
気づかないうちに、静雄のことで頭がいっぱいになっている。忘れようとしても、それを許さないほどに。
どうして?何で?シズちゃんのことなんか、どうでもいいじゃないか。
――そうだ。日常を歪められる日常であったから、だからそれがないことが気に食わないのかもしれない。そうに決まっている。
無理矢理自己完結させて、臨也はあと僅かなゴールまでの道程に、スピードを上げた。
どうしてこんなにもやもやするのか。答えを知りたくなかった。


そうしてゴールすれば、既にゴールしていた静雄と目が合う。その瞳は苛立たしげに細められ、逸らされた。
…ずきん。
胸に走った痛みは何なのか。分からない。分かりたくない。知りたくない。
そう思い、足早にその場を離れようと踵を返した時だった。

視界が暗転して、音が遠くなる。身体から力が抜けて、ぐらりと傾いた。けれど、咄嗟に身体はそれを制御出来ず、意識は闇の中に放り込まれる。

臨也。
――聞き慣れた声が、呼んだ気がした。



ふと目を覚ませば、視界は青空ではなく真っ白な天井だった。
体育をしていたはずでは、と記憶を辿り、倒れて気を失ったことを思い出す。
睡眠不足の上、食欲もないからとあまり食べなかったせいで、貧血にでもなったのだろう。
…どれもこれも、シズちゃんのせい。シズちゃんの態度が変だから、どうにも気掛かりで本能で行うことすらろくに出来なかった。
どうせだから、また寝てしまおう。思考を遮断し、瞼を閉ざそうとした時だ。

ベッドを囲むカーテンが開く。先生でも入ってきたのかと見やれば。

「起きたのか」

「――、シズちゃん」

そこにいたのは静雄だった。驚いて、一瞬で目が覚める。

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