1周年小説

□解語の花
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その日から、妙に臨也が気になり出した。普段の苛立ちからのものとは違う、興味にも似た感情。
…惹かれている、のだ。紛れもなく、臨也という喧嘩で結ばれていたはずの奴に。

そんな何処か色づいた、でも変わらない毎日のある日。
昼休み、いつものように友人を交えて4人で屋上で昼食を摂っていた。

「そう言えば、テスト前の数学の授業、静雄が臨也睨んでたよ」

唐突にそう言ったのは、新羅だった。
変な顔をしていたのでは、そう思い緊張したが、睨んでいた、という言葉以上は新羅の口から紡がれない。

「何?寝込みを襲おうとか、流石にせこいと思うよ?」

「違うに決まってるだろ!テスト前の授業で寝やがって、何様だ手前は!」

手元の焼きそばパンを握り潰す勢いで言った静雄は、臨也を睨み見た。
…こんな時でさえ、端正な顔だ、と思えてしまう自分はほとほと重症だと思う。
当の臨也は、その威嚇するような視線に怯むこともなく、にやりと不敵な笑みを零した。

「だって、聞かなくても点数取れるんだからさ。
俺の顔見てたのかと思った、っぶ!」

潰れた焼きそばパンの入った袋は、臨也の顔めがけて投げられ、見事に命中する。
最悪、と気に入らないと言いたげに唸った臨也を、門田と新羅は思わず笑った。
仕方がないじゃないか。冗談であったとしても思っていたことを言われたのだから。
奥歯をぎりぎりと鳴らして、そんなわけ無いだろ、とも言えない自分が嫌になりながら臨也を睨んでいれば、新羅がケラケラと笑いながら言った。

「臨也は昔から顔だけはいいからね、性格は最悪だけど」

「…それ褒めてるの?貶してるの?」

「やだな、褒めてるんだよ」

とても褒めているようには聞こえない。
眉をしかめている臨也へ、笑いが収まったらしい門田が入れ替えるように苦笑を零した。

「確かに、臨也は顔は綺麗だよな」

「……」

微妙な顔をしながら黙った臨也。…俯いたその頬が僅かに赤らんでいたのを見たのは、静雄だけ。

臨也は正に花のようだった。
華やかなのに、それを誇示するわけでもなく、時には隠そうとすらする。
棘は沢山ある。近寄れば、触れれば、刺さってしまう。それでも、触れてみたい、近付いてみたい、と憧れを抱かざるを得ないほどに惹かれてしまう。

…悪いことなのだろうか?




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