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□白昼夢の言葉を厭う
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――何回イったっけ…
霞がかる頭にふと思い、夢心地の中から意識が呼び戻されてくる。
いっそこのまま夢魔にでも拐われてしまった方が楽なんじゃないか…そんなことを思いながら、覚醒しかけた意識を再び闇に落とそうと瞼を開くのを止めた時だった。

さわり、と何かが頭を掠めた。始めは風かと思ったが、この部屋は臨也を閉じ込めておくために窓はない。
かと思えば、温かな温度が頬に触れた。その温度は優しく頬を滑り眠りを誘う。
その優しい誘惑が逆に臨也に違和感を与え、ぱっと目を開けた。

――視線の先には、先刻まで臨也を犯していたはずの、静雄の姿があった。

一瞬状況が全く読めず固まる臨也に気がついた静雄と目が合い、頬に添えられていた手がぱっと離れる。
その顔に気まずさを滲ませて、場から逃げていこうとした静雄。

「…っシズちゃん!」

思わず、その背を呼び止めていた。
臨也の声に、静雄はびくりと止まる。普段なら、なんだ、と愛想悪く振り返るのに、そんな素振りすらない。
――こんな、何処か怯えたような姿は初めて見た。

…でも、何かが突き止められる気がして。尋ねるのは今しか無い気がして。

「何、今の」

「……知るかよ」

静雄のあくまで知らばくれようとする態度に、臨也は負けじとベッドから立ち上がり、静雄の背に歩み寄ると逃げられないように服の裾を掴んだ。
手首には、縛られて紫になった跡がまざまざと残り、昨日の情事を露骨に主張している。
臨也はじっとその背を見詰めながら、静雄へ再び口を開いた。

「自分自身のことだろ、知らないとかありえない」

「…黙れ」

嫌なんだよ。もう嫌なんだ。
訳も分からないまま監禁されて、痛みと快楽だけを与えられて。
何のためなんだよ?俺はシズちゃんの何?
殴るくせに撫でるなんて。その手を恐れるべきか受け入れるべきか、それすらも分からなくなりそうで。

「…何で撫でた」

「……気分」

「気分で、嫌いな奴の頭撫でるのかよ。そんな風に、優しく?」

「ッ、それは――」

静雄の声に唐突に力が籠った。驚きに静雄の顔を見上げるが、その肩は一瞬戦慄いただけで、それからは静雄は口を閉ざしてしまう。
…何なんだ。何が言いたい。今の言葉に否定するのか?何を?

もう一度、どうして、と尋ねるが、静雄は口を開こうとしない。
臨也は諦め――代わりに、先日の夢のような言葉を思い出した。
今しか言えない。きっと、いつかは尋ねることすら恐怖になってしまう。


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