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□愛してるから、
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その頃臨也は、教員の後ろを歩いていた。
何処に行くつもりなのだろうか――職員室を通り過ぎて1分、ふと疑問に思う。
しかしわざわざ尋ねるのも億劫で、臨也は苛立ちすら感じながら歩いていれば。

不意に振り返った教員は、突然臨也の両手首を掴んだ。
何事かと驚いているのも束の間。臨也の身体は、トイレに連れ込まれた。そのまま一番奥の個室まで力ずくで連れていかれ、臨也はなす術もないままにそこに押し込まれる。
――そこで待っていたのは。

「臨也、久しぶりだね…」

「――ッ、あんたは…!」

…今更気が付くなんて。
臨也は自分の警戒心の無さを死ぬほど悔やんだ。

あの時のストーカー。しかも、ここまで連れてきた奴は以前車を運転していた奴だ。
混乱するばかりで顔など殆ど覚えていなかったせいで、中途半端な見覚えしか無かった。
掴まれた手首は後ろで一纏めに縛られる。もがくも取れそうもなく、これではナイフすら使えない。
しかも今いる階は、部活の生徒も来なければ鍵閉めの先生も外からしか確認しない場所で。
――誰も、気づいてなどくれない。

胸は騒がしく高鳴る。
怖い。怖い。怖い。
どうして、なんで、こんなところに。

悲愴な顔をする臨也の感情を読んだかのように、先刻まで非常勤の教員と言っていた男は、卑しい笑みを浮かべた。

「簡単だな。スーツ着て平然と歩いていれば、誰にも疑われねぇ。適当に理由を作れば簡単に誤魔化せる」

するり、と、その手が臨也の上着の下に入った。
びくんと跳ね上がった臨也は、壁にぶつかっても尚後退ろうと足を動かす。
怖い。あの時の痛みが、恐怖がフラッシュバックして、足ががくがくと震える。

――と、不意に指先に冷たい感触が触れた。恐怖に埋まりかけた意識が呼び戻され、何かと思い…それが携帯であることに直ぐに気がつく。

臨也はそれを後ろのポケットからゆっくりと出すと、悟られないように隠しながらボタンを弄った。
誰か。助けて、誰か…

記憶に沿って、着信履歴の一番上の番号へ向けて電話をかけようとした時だった。

「っぅあ!!」

どすり、と、もう一人の男の拳が臨也の腹を穿った。
手元からするりと抜け落ちた携帯は床に音を立てて落下し、外れた電池パックが無惨に床に転がった。
発信はした。しかし、それもほんの1、2秒しかない。誰か分からないが掛けた相手が気づいていなければ、助かる見込みはないのだ。
さぁ、と血の気が引いた。腹部の痛みと押し寄せる計り知れない恐怖に、冷や汗が溢れる。

「そんなことしちゃ駄目だよ」

男の手は殴り付けた臨也の腹部を丹念になぞってから、その手を胸元にさ迷わせた。
その突起に指が触れるだけで、ぞわり、と鳥肌が立つ。静雄との行為の気持ち良さを知った身体はその指に酷く拒否反応を示し、気持ち悪さだけが背筋を這った。
泣きそうな顔で固まった臨也を見た男たちは心の底から楽しそうな顔をすると、その下にまで手を伸ばした。



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