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□愛してるから、
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「折原くん、ちょっと来てくれるかい?」

放課後、帰宅しようかとしていた時。
唐突に、男の教員らしき人に呼び止められた。
隣を一緒に歩いていた静雄、新羅、門田も振り返り、その教員の顔を見る。

「…帰るんですけど」

短ランで授業放棄もしばしばな臨也が教師に呼び止められるなど、殆どが悪い話ばかりだ。
今から4人で帰るというのに気分を害されたこと他ならないのだが、この教員にそこはかとなく見覚えはあるものの弱味を握っていた覚えはない。

「見かけない顔だね」

同じことを思っていたらしい新羅の言葉に3人を振り返れば、皆が同じ事を思っていたらしい。その教員は「非常勤で一年生担当だからね」と笑って見せた。
それなら確かに関心も殆ど無いため、情報の収拾もろくにしていない。
そんなに時間も取らないとの言葉に、仕方なしについていくことにした。

「先に帰ってて良いよ」

「分かった。また明日な」

「叱られたって話なら明日聞いてあげなくもないよ」

門田の声に頷き、新羅の嫌味な言葉にひきつり。最後に、恋人の静雄に小さく手を振って、その教員の背に付いていった。


臨也だけ別れた3人は、校舎から出て校門まで向かう。
そんな中、不意に新羅が口を開いた。

「それにしても、話ってなんだろうね。一年担当の非常勤なんか、何の関係があるんだか」

首を傾げる新羅の言葉に門田は、確かにな、と相槌を打つ。
勿論、静雄もそれは気になっていた。上の教員に足代わりに使われたのだろうか。
幾ら恋人と言えど、臨也は静雄の知らない色々な情報網を持ち合わせている。寧ろ静雄が知るところでは無いものが大半だろう。その類いの可能性も無くはないのだ。
…まぁ、すぐ終わると言っていたし。

「ごめん、俺は臨也を待ってる」

校門で止まって言えば、そう、と頷いた新羅は、楽しそうな顔をする。

「相変わらずラブラブだね、まぁ僕とセルティの足元にも及ばないけど、それは認めてあげるよ。
それにしても、どうして喧嘩ばっかりの君たちが付き合うことになったんだか」

新羅の言葉に、心臓が勝手に跳ね上がった。
なに、どうして、と楽しそうに口を開く新羅を車道まで突き飛ばす勢いで押すと、門田も一緒に見送った。
一人になった静雄は、校門の柱にもたれ掛かる。

付き合う切欠は、臨也のストーカー事件が発端だ。
帰宅途中突然連れ去られ、犯された。
あの時見た臨也の痛々しさは思い出すだけで胸が痛いし、ストーカーが憎い。
臨也は警察に届けるのも嫌がるし、だからと言って自らが探すのも怖かったらしい。結局、まだストーカーは捕まらないままだ。
だから、ここ数ヵ月は臨也を家まで送り届けるのが静雄の日課になっていた。
…それがあったからこそ今こうしてお互いの気持ちが通じ合っているのも、半ば虚しくはあるのだけれど。

そんなことを考え始めれば、頭はぐるぐるとその方向へ傾いていく。
ぶんぶんと頭を振ってその考えを振り払うと、いつ帰ってくるだろうか、とぼんやりと時計を眺めることにした。



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