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□王子様の探した印は、
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「…女装趣味でも出来たのかしら」

無表情に呟いた波江は、臨也の出て行った扉をぼんやりと見つめた。
自分の雇い主が再び女装して仕事に出掛けた。それが仕事だとしても、初めて女装した時の様子から考えるとなかなか信じがたい。
勿論以前の女装で何があったのかは知らないが、女装が上手くいっても仕事が上手くいかなかったということだろうか。
…何にせよ、波江にとっては。

「…気持ち悪い」


***

暗くなった池袋のビルの谷間を、ハイヒールを鳴らして歩く。
臨也は、二度目になる女装での仕事をしていた。
用件は、静雄の乱入により断念した前回と同様。仕事先では男と発覚していないし、今回も前回同様にすれば問題は無いだろう。

「…見つからないように」

小さく囁いて、臨也は歩を進める。
以前の仕事の際静雄にばれることは無かったが、少なからず臨也には衝撃だった。
…だから、見つかりたくない。そう、見つかりたくないのだ。
言い聞かせるように胸の中で反芻して、臨也は店の扉を開けた。
店に入れば挨拶の後直ぐに数人の男に声を掛けられ、頭が痛くなってくるのを堪えて笑顔を取り繕う。

「ご指名は?」

尋ねられ、誰でも、と返そうとしたものの。

「…棚倉さん、って人は?」

「棚倉?…ああ、あいつは解雇されましたよ。ちょっと前、あいつが原因で店内がめちゃくちゃになったんで」

ああ、やっぱりあの時のか。そう思い出し、安堵する半面。
…何、ガッカリしてるんだろう……。
そんな自分を頭を振って振り払い無理矢理仕事に切り換えると、じゃあ誰でも、と笑って返した。



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