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□CALL FOR ME.
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気がつけば、既に夕暮れになっていた。光りだしたイルミネーションで暗くはないが、駅へと続く道は帰宅を急ぐ人の波が出来ている。
いい加減帰ろう。大丈夫、きっと何も起きていない。たまたま電話にも出られなかっただけで。
子供じゃないんだから――


「シーズちゃん」

突然、後ろから声が聞こえてきた。こんな馬鹿げた、けれど親しい呼び方をするのは、一人しかいない。
一般男性より僅かに高い声。当時は苛立ちを増幅させるものでしかなかったはずの、愛しい声。
振り返れば、今日散々探し回った漆黒の姿があった。
静雄の酷く驚いた顔を見て不思議に思った臨也は、首を傾げる。

「どうしたの、血相変えちゃって」

静雄は歩み寄ると、街中に関わらず臨也を抱き締めた。わ、と声を上げた臨也の温度に、ようやく安心する。
良かった。何もなかった。ちゃんと無事に此処にいる。
安堵する静雄を他所に、臨也は慌てていた。確かにこの腕は好きだけれど、流石に恥ずかしい。

「ちょっとシズちゃん、ここでは…っ」


「会いたかった」


突然耳元で囁かれたそんな言葉。ばっくん、と大袈裟なほどに胸は跳ね上がって、まさか聞こえているのでは、と思えば身体中が熱くなる。
それを誤魔化すように臨也は笑って見せた。…大分、声は震えていたけれど。

「ハハ、何?どうしたのさ、突然…」

「理由なんてねえ。会いたかっただけだ。…ったく、心配させやがって……」

ぼやく静雄にドキドキしながらも言葉の意味が分からず、何で、どうしたの、と尋ねれば、仏頂面をした静雄は低く唸るように呟いた。

「何で電話、出なかったんだよ」

「え?…ああ、携帯家に忘れちゃって」

それで心配したの、と問いかけられ、静雄は言葉に詰まりながら、うるせぇ、と小さく返した。
たったそれだけの言葉が妙に嬉しくて、胸が騒がしくて仕方なくて。

「で、もさ、そんな心配することじゃないだろ、電話出なかったくらい…」

恥ずかしさを紛らすように言えば、静雄はしかめっ面のまま黙り込んでしまった。その意味を考え――ふと過った出来事に、違いないだろうと確信する。
大雑把で、喧嘩して怪我をさせた相手やらは覚えていないくせに、忘れて欲しいことは覚えているものだから余計に質が悪い。

「あのさぁ、もう良いって言ってるだろ、いい加減忘れてよ」

「忘れる、けどよ…」

戸惑いがちに言った静雄に、嘘吐き、と一つ呟く。うるせぇな、と低く言われたが、シズちゃんよりは静かだよ、とわざと軽くあしらった。


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