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□CALL FOR ME.
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静雄は、新宿の街を歩いていた。
勿論、たった一人の恋人に会うために。

一月前から付き合ってはいるが、こうして唐突に会いに行くのは初めてだった。
一応連絡くらいは入れておこう、と思い、臨也の携帯に連絡を入れるために発信履歴の一番上を押し、軽い電子音を聞きながら臨也が出るのを待つ。

…しかし、いつまで経っても臨也は出ない。
ようやく電子音が途切れたと思ったが、機械的な女性の声が返ってきただけで。

胸がざわつく。じわじわと心配になって、臨也の自宅へ向かう足は無意識に早くなっていく。
気がつけば、走り出していた。

過剰なほどに不安になるのは、二人が付き合いだす切欠になった事件からだ。
あれがなければ臨也への想いに気づかないままでいたことになり、それはそれで困ると思うのだけれど――必ずしも起きて欲しかった出来事でもないのだから。
だから、単に仕事と言われても、素直に送り出すのが怖い自分がいる。


その後臨也の自宅へ着くが、幾らインターホンを鳴らしても臨也は出て来ず、代わりに出てきた彼の部下が、仕事に行ったわよ、と怪訝な顔をして言うだけだった。

考えすぎだ。そう信じたい。二度も三度も臨也があんな目に遭うなんて、考えたくない。
そんなことを思いながら、静雄は池袋へ帰ってきた。
もしかしたら池袋に居るのかもしれないし、たまたま入れ違っただけかもしれない。
…でも、どうして臨也は電話に出なかったのだろう。普段なら、直接取引中だろうと図々しく出るくせに。
だから、余計に心配を煽られる。

愛しいのだ。だから、愛しい程に不安は募る。
もっとずっと、傍にいられたらいいのに。行くな、とフードを引っ張ってやりたい。反抗されても、抱き締めて行かせないようにしてやりたい。
でも、臨也も束縛されることは好きではないし、同じように自分もそんなことをされれば困るのだ。それに、そんなことをするほど子供だと思われるのは気に障る。
だから、一定の距離を保って、恋人でいたい。疎まれない場所で、繋ぎ止めていたい。
それこそ、我儘かもしれないけれど。


――と、馬の嘶きのような音が響いているのに気がついた。
聞き慣れたそれに振り返れば、影に命が宿って動いているような錯覚すら覚える姿が、静雄の目に映る。
その影も静雄に気がついたようで、エンジン音の止んだバイクを路肩に止めた。
黒い影…あの出来事の大本の首謀者であった岸谷新羅の愛して止まないセルティ・ストゥルルソン。彼女は、何処からともなく出したPDAに、滑るように文字を打ち込みだす。

『仕事終わりか?』

「いや…ちょっと私事だ。そうだ、臨也知らねぇか?」

池袋を走り回っている彼女なら知っているかと思い問いかけるが、セルティは知らないと首を横に振る。
それから僅かに間を置き、迷ったようにPDAを打つと、恐る恐るに差し出した。

『少し、臨也について訊きたいんだけど、絶対に怒らないか?絶対に、だぞ?』

「?、ああ、わかんねぇけど」

そう答えれば、セルティは僅かに迷い。言葉を選んでいるのか、指を震わせながら画面を睨むも、脱力したように肩を落とす。

『…やっぱりいい。』

「そうか?」

まぁいつでも話は聞くから、と言った静雄に曖昧に頷きながら、セルティは再び嘶きと共に走り去った。



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