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□春色融解
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「シズちゃんは進学だっけ?よくその頭で進学できたね。まぁ大学なんかピンからキリまであるしね」

「…やっぱり嫌みばっかり言いやがるな手前はよぉ……
――臨也は、まだ此処の教諭やるのか?」

「今のところ、転任予定は無いよ」

そう応えて、臨也はどうにも落ち着かないまま俯いた。
涙が出そうだった。
卒業する彼が平然としているのに、この学校に残る自分が泣きそうになっている。
――学校に来ていた意味の半分は、彼が居たからだ。勿論、仕事として来なければならないのが一番でなければいけないのだろうけれど。
その彼が居なくなってしまう。明日から、静雄は此処には現れない。
それは、酷く寂しいものに思えた。

「臨也」

不意に、親しんだ声に名前を呼ばれる。
最後かもしれない。それなら、笑顔で応えてあげたい。
臨也は然り気無く目元を拭ってから笑顔を繕って顔を上げた。

――と、柔らかな感触が唇に触れた。
今までも幾度となく触れてきた唇。愛しくて仕方が無いその口付け。

…最後?

唇が離れ、何処か得意気な顔をする静雄と目が合う。それだけで込み上げてくる感情を堪えられなくなりそうで、臨也は然り気無く視線を逸らした。
沈黙が落ち着かなくて、臨也は誤魔化すように口を開く。

「だ、からさぁ、最後くらい、臨也じゃなくて、先生って――」

ぱし、と切れのいい音と共に、臨也の手首は掴まれた。
ばくん、と一際胸が高鳴って、思わず逸らしていた視線を静雄に向ければ、


「もう、先生じゃねえだろ」


真剣な眼差しが、臨也を射抜いた。
胸がぎゅうと苦しくなって、今更、もう先生と生徒の関係では無くなることを痛感してしまう。
離れたくない。傍にいたい。
幾つも年下の奴にこんなに溺れている自分は馬鹿みたいだけれど、こればかりはどうにもならないのだ。
視界が滲んでくる。隠そうにも彼から視線を離せなくて、直ぐに瞼の許容を越えた涙は頬を滑り落ちた。

「臨也…っ!?」

何事かと慌てる静雄は、今まで見たことなど無いほどに動揺していて、そう言えば目の前で泣いてしまうのは初めてだと思い返す。
大人気ない、と思えど溢れる涙は止まらなくて。笑っていようと決めたのに。
臨也は、唇を震わせながら蟠る思いを訥々と話し出した。


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