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□年下恋愛事情
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最後に好きとか言ったの、いつだっけ…

はぁ、と吐息を溢せば、ふわりと芳醇な香りが部屋に広がった。
その香りに落ち着きを求めるかのように息を吸い込み、それから臨也は口を開く。

「俺ね、シズちゃん好きって言ってたよ」

「……そうか」

思案して俯いた静雄の表情は、何処か気まずそうで。
そんな表情に堪えかねて、臨也はコーヒーを机に置くと静雄との距離を縮めて隣に座った。今なら誰に見られることもあるまい。…恥ずかしくはあるけれども。
何だよ、と驚く静雄を見上げて、臨也は顔が赤くなっていないのを祈りながら悪態をつく。

「良いだろ、ちっさい頃はこんなの普通だったくせに」

「それは――…いや、何でもねぇ」

静雄は開きかけた口を不自然に閉じた。思わず、胸が高鳴る。
何を言おうとしたんだ。気になる。でも、少し怖い。
何だかんだ優しい静雄が不用意に他人を傷付けるような台詞は言わないことは分かっているが、無意識の範囲内だとどうにもしようがない。

「…なに、言えよ」

緊張を隠しきれないまま問いかけた臨也を見た静雄は、唇を歪めて不満そうな顔をするも、誤魔化し混じりに言った。

「だからよ、…言ってただろ、大人になったら分かることもあるって」

「は?何の話?俺が小学生の頃の話とか、記憶曖昧なんだからね?」

そう言いつつも素直に記憶の引き出しを探れば、案外直ぐに見つけ出された。
…何だかんだ、あの頃の自分には大きな出来事だったのだから。

「好きだから離す、とか言うやつ?俺もうあの頃よりかは大人だけど、分からないんだけど」

「…手前がまだ子供なんだろ、30の大人に自分はもう大人だとか言ってるなよ」

静雄の戸惑いながらの対応に、臨也は眉間に皺を寄せた。

触れたいのだ。
口数少ない彼との会話から感じられないことまでを手の小さな動きから感じられたら、どれ程嬉しいことだろう。
冷たいのだろうか?温かいのだろうか?緊張したら?喜んだら?
考えても、触れない限りは知りようもないのだ。
…でも、仕方ないだろう。俺だけが、彼に触れたいなどと考えるのは。
やはり、静雄とは抱く感情が違うのだ。

臨也は差し出した手で、静雄の頬をつねってやった。何しやがる、と低く唸られたが、臨也はその手を離さない。

「良いだろ。だって俺はシズちゃんに触りたいから」

「は、馬鹿言ってるな。離せ」

「じゃあ教えてよ」

声に効きもしない威圧を込めれば、静雄は僅かに頬を染めた。何なんだ、と思いつつ頬から手を離してやれば、静雄は赤らんだ顔のまま大きく息を吐く。
…そして唐突に、臨也の頭を撫でた。


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