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□年下恋愛事情
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「シズちゃーん!」

「どうした、臨也」

「シズちゃん好きー!」

――ああ、今俺は幼い頃の夢を見ているのだ。
年上の愛しい青年に駆け寄って抱きつく、当時8歳、小学校二年生の俺。
青年…平和島静雄は、その小さな身体を軽々と持ち上げ、ぎこちない笑みをその頬に浮かべて見せた。

「俺も臨也が好きだ」

優しげで不器用な台詞に、小さな俺はにこりと向日葵の如く笑う。
大好きな人に好きだと言ってもらえる。当時単純だった俺は、それだけで充分喜んでいた。
…例え、その“好き”の意味に誤差があろうとも。
今となっては分かる。たかが8歳の子供に、ずっと俺の中で蟠る“好き”と同じ意味の好きなんて向けるわけがない、と。
何せ、14年も離れているのだから。


***

折原臨也、16歳。数ヵ月前に高校入学したばかりの新一年生だ。
臨也は、いつものように学校帰りに彼の家に寄る。
――平和島静雄、30歳。小さな頃から慕っている存在の彼の家に。

来慣れたマンションのインターホンを鳴らせば、直ぐに僅かに傷んだ金髪が姿を現した。
勿論、それにも慣れている臨也は、彼ににこりと笑って見せる。

「お邪魔します」

「おう」

ともすれば淡白な会話のみをし、臨也は家に上がった。



出された砂糖のたっぷり入ったコーヒーを啜り、臨也はその甘さに僅かに顔をしかめて見せる。砂糖入れすぎだよ、と太々しく言えば、文句言うな、と頭を小突かれた。
それでも素直にコーヒーを飲みながら、臨也はふと口を開く。

「そう言えば、今日の授業中昔の夢を見たんだよ」

「授業中って、手前寝るなよ」

呆れたように言った静雄を、臨也は横目に見つめる。

思えば、俺とシズちゃんの関係は大分変わってしまった。それは多分、シズちゃんよりも、俺が変わってしまったからだ。
小学校高学年、中学生、と年を重ねるにつれて、ひとつひとつに恥じらいや困惑など、複雑な感情を重ねることが多くなった。
勿論、それは通るべき道であり、何も悪くないことなのだろうけれど。
感情が大人に近づいていくに従って、素直に甘えられなくなった。抱き上げられる、頭を撫でられる、という行為が、恥ずかしくなった。
してもらいたくない訳ではない。寧ろ、その強くも優しい手は、臨也のお気に入りだった。きっと触れていられるのならいつまでも手離さないほどに。
…でも、臨也が静雄との接触に恥じらいを覚えていくにつれて、静雄も臨也に触れることは徐々に少なくなっていった。先刻頭を小突かれたのも、いつぶりだろう。
静雄にしても、臨也の内外の変化に戸惑いや異変を覚えているのだろうか。


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