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□片想い環状線
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「だから、俺は喧嘩するのは止めねぇって言って」


「シズちゃんに何が分かるんだよ!!」


叫んだ声に、電柱で毛繕いをしていた烏がバサバサと飛び去っていく。
目を丸くする静雄をキッと睨んで、臨也は胸に滞る言葉を吐き出した。

「俺のことどうでも良いくせに、何で喧嘩を止めようって言ったらそれは嫌がるのさ!?俺を無条件に追いかけることをストレス発散に考えてるなら、他をあたってくれないかな!?
俺はシズちゃんと喧嘩したくないんだよ、もう離れたいんだよ。――辛い…」

辛い。もう嫌だよ。辛いよ。
これが逃げになるのなら、俺はそれでも構わないから。
俺を想ってくれることのない人の隣で延々と片想いを続けることを強要されるなんて、そんなのは残酷では無いだろうか。
きっと彼には分からない。俺が何れ程好きか、なんて。
視界がじわりと歪んだ。瞬きをひとつして、それを誤魔化して。

「辛い…もう叶わないなら、忘れさせてくれよ……」

無論、距離を置いてすぐに忘れられるとなんて思っちゃいない。でも、時間の流れがいつかは押し流してくれる。人間は結局、忘れながら生きる生き物なのだから。

涙を堪えて俯いた臨也。
静雄は、臨也を見つめた。表情という表現が上手くいかない静雄は、その僅かな眉間の皺に全ての想いを滲ませて。


「俺は…手前が好きだ」


あまりにも唐突に溢された言葉に、臨也は息が止まった。恋愛感情なのだろうか、否、でも今まで散々否定してきたくせに。
信じられない、と言いたげに静雄を見た臨也へ、静雄は口を開いた。

「手前のことが好きだから…もし、セックスの時の馬鹿げた応酬で言ったら、そこで終わりな気がしたんだよ。
確かに感情は関係無くああいう関係を始めたのが悪いんだろうけど、セックスから始まった恋愛だと思われたく無かったし…
手前が離れていくのが怖かったから、手前を泣かすことしか出来なかった。臆病なんだよ、俺は。自分が辛いのは嫌だから、他人に押し付けてんだよ」

「…何それ、?」

じゃあ何だ?俺が今まで片想いだと思っていた間、実は彼が線路から逃げ出さないように見張っていたということなのか?
俺が敗けた分、終わらない環状線を歩み続けた分、…静雄が想ってくれていたということなのだろうか。

「なら、なんで…っ、もう止めようって言ったらあんなに簡単に了承しちゃったの?本当は言い訳なんじゃ、ないの…?」

じわり、と再び涙が滲んだ。堪えようとしたものの今度は止まらなくて、頬に生暖かい温度が滑り落ちる。


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