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□片想い環状線
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それから一週間後。

「いざやぁあああ!」

「煩いな、他の人怖がってるだろ」

二人は、池袋で普段と変わらない喧嘩を続けていた。
「いつも通り。」その一言が、酷く胸を締め付ける。

諦めよう。もう止めよう。
終わらない道を走り続けるなんて、きっともう俺には救いの手も無ければ、突き飛ばす手すらも無い。

だったら、自分から断ち切ろう、と決めたじゃないか。
喧嘩という繋がりだけの関係に戻ろうと。救われない世迷い言に踊らされるのはもう止めようと。
…なのに、断てないまま。目の前には円を描く一本道が続いている。
なんでこうも俺は諦めが悪いのだろう。
どうすれば、そんな俺でも道を断ち切れるのだろう。

人通りの少ない裏通りで臨也は足を止めると、くるりと振り返った。
嘲笑。浮かべるには、これが精一杯。


「シズちゃん、喧嘩なんかみっともない。止めよう。」


「…は?」

静雄の唇から、苛立ちを孕んだ声が漏れた。しかし臨也は作り上げた笑みを崩さないまま、捲し立てるように口を開く。
彼に喋られてしまうのが怖かった。清々する、という台詞ならまだしも、そうかよ、と冷めた反応が一番怖かった。
だから、沈黙を撥ね付けるために、必死に臨也は言葉を紡ぐ。

「いい加減さ、俺も飽きたんだよね。シズちゃんと喧嘩するのも。
俺だって暇じゃないんだよ?副業だったとしても、情報屋は俺には大切な仕事だしね。趣味の人間観察も、君にとことん邪魔されるし。
どう?俺も今月は池袋に来る用事もないし、ここでお互いに大人にならない?
俺が今月の残りに池袋に来なかったら、もう俺とシズちゃんは他人。喧嘩なんか持っての他の仲にな」


「ふざけてんのか、手前は」


何の前触れもなく、静雄の低い声が臨也の声を遮った。それだけで、必死に動かしていた口は動きを止める。一瞬で頭が真っ白になって、何か言おうと口を開こうにも声が出てこなくなる。
静雄は、臨也へ睨むような視線を向けながら口を開いた。

「俺が手前と喧嘩しないなんて無理だろ。俺は認めない。手前を見つけたら、速攻怒鳴りかかってやる」

「……っ、そんなの、シズちゃんの勝手じゃな」

「臨也の言い分も手前の勝手だろ」

何で。どうして。
攻めようにも武器である口は頼りない言葉を紡ぎ、それを拙い言葉ばかりの静雄に制される。
どうして。どうして…?


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