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□片想い環状線
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――いつから回ってる?
分かんない。

――幾ら回った?
知らない。

――いつ終わるの?
いつ終わるのさ。


自問自答。答えは出ない。
ただ、俺は彼に心を奪われた日から、この環状線から抜け出せないでいる。

片想いの感情、から。



***

いつもと変わらない静雄の家での行為。
臨也は、紫煙の香りと事後の独特の匂いの残るシーツに俯せに寝転がっていた。
隣では、上半身を起こして煙草を吸う静雄がいる。
そんな彼を視界の隅に見つめながら、臨也は口を開いた。
いつものように。

「好きだよ、シズちゃん」

無表情に、そう紡ぐ。
それを横目に見た静雄は、銜えていた煙草を唇から離し、息を吐く。ふわ、と白濁の煙が浮かんで消えた。

「俺は嫌いだ」

「知ってる」

度々聞くその拒絶の言葉。いい加減慣れれば良いものを、自分は今の今まで真正面から受け止めて、傷ついている。
感情的になれば敗け。俺はそう、いつだって、こいつには勝てない。
幾ら情報を操っても、幾ら回避が上手くなっても、そこに勝利の言葉はない。いつだって、静雄は予想外の方向へ逸れて、俺を罵るように嘲笑う。
ほら、今だって、無表情に。

“――いつ終わるの?”

俺はいつだって独りぼっちだ。
彼と喧嘩をして、身体の関係まで落ちて、少なからず傍に居るはずの俺は、ずっと独りぼっち。
ここに取り残されている。彼の背中を追いかけて進んでも、気がつけば元の場所に戻されてしまう。そんな虚しいことの繰り返し。前進した分だけ後退する。

“いつ終わるのさ。”


「ねぇ、シズちゃん」

「…あ?」

臨也は枕に頭を埋めたまま、ぽつんと呟いた。
感情を押し殺すことは、出来なかった。やっぱり、敗け。


「終わろうか、もう」


環状線を断ち切ってしまおう。
この手で、終わらせてしまおう。

首を傾げた静雄。臨也はそれを見上げて、自嘲気味に笑った。

「もうこんな関係止めたいよ。俺は、前に進みたい。このまま堂々巡りなんて、いい加減馬鹿らしい」

「……そうか」

静雄は穏やかだった。その表情は相変わらずの無表情で、驚いているのかも喜んでいるのかも分からなかった。
…関心すら無いのかもしれない。そう思えば、胸は軋んだ。線路は綺麗に修復されていく。俺はそれを必死で壊す。

「…引き留めない?」

「手前がやめたいんだろ。俺が引き留めてどうすんだよ」

…当たり前か。所詮は俺の片想いなのだから。
いくら身体を重ねても、きっと溶けて混ざることなど一生無いのだ。

「そういうことで、おやすみ」

「…ああ」

臨也は、布団に埋まった。身体を包み込む暖かな温度に反して、胸は冷え冷えと煮えたぎっていた。




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