five days in mirror

□Only Day
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Five days in Mirror
…only day




「今考えてもさ…あれって本当に何だったんだろうね」

当時に思いを馳せている最中ふと呟いた臨也の声に、隣に座る静雄はその記憶を手繰った。
もう何年も前になる、高校時代。
その殆どを臨也に費やしてきたと言っても過言では無いと思う。…良くも悪くも、だが。

考えて数秒で、その言葉の答えは思い出された。
いつもと同じ喧嘩をしていたあの日。鏡という媒介を通して、臨也が異世界の臨也と入れ替わった5日間。あまりにも現実とは思えなかった。
…しかしあの短い時間があったからこそ、今も自分の隣に臨也がいるのだと思う。

「そう言えば、詳しいことは聞いたこと無かったよね、入れかわってる間とか」

「……確かにな」

臨也が此方へ戻ってきて、忘れられない誕生日になって。
全然違った、という事は互いに言っていたものの、その5日間を振り返って話したりと言うことは確かにしていない。

「ねぇ、どんな感じだった?あっちの世界の俺」

「あ?」

好奇心をまざまざとさせている臨也に、静雄は当時を回顧する。

逃げる臨也へゴミ箱を投げた。驚いて急ブレーキをかけたのが見えたが、臨也は踊り場の鏡に激突してそのまま床に尻餅をついた。…しかし、予想した鈍い音は全く聞こえず。
流石に心配で駆け寄れば、妙に恐怖心を押し殺しているような瞳が静雄を見上げてきたのだ。
何か違う。そう思うのは容易く。

「やっぱりびびってたでしょ。付き合ってるはずの相手にいきなりガン飛ばされるんだから」

ケラケラと笑った臨也は、で、どうだったの、と再び問い掛けてきた。
そんなに聞きたいのかよ、と言えば、疚しいことでもしたの、と問い返されて。勿論、言われるようなことは何一つしていないから、そんなわけあるか、と睨んでやる。
静雄はその当時をゆっくりと手繰りながら、口を開いた。

「…流石に、びびったな。
心配して駆け寄れば突然、でもシズちゃんの方が好きだよ、って泣きそうな顔で言われてよ」

「喧嘩してたんだよね、あの二人。俺等みたいな戦争じゃ無かったみたいだけど」

「ああ、何言ってんだきめぇ、って反射的に言ったら大泣きされた」

最悪ー、と口を尖らせた臨也に、仕方ねぇだろ、と言い返して、静雄は記憶の日付を捲っていく。

2日目。俺から逃げる臨也をひっつかまえて、噛み合わない会話からどうにか状況を探った。入れ替わった、なんて信じられない事実を確信した。
3日目。想像出来ない状況に落ち込む臨也を励ましているうちに、妙な苛立ちを覚えた。それが恋心からだと気付き…かと思えば、臨也に速攻で悟られて。恥ずかしかったけれど、良い相談相手になってくれた。
4日目。大分打ち解けて、臨也と帰る方法を考えた。臨也の、同じことをすれば良いかも、という提案に乗った。その日は、臨也と恋人同士になったらこんな風なのだろうか、なんて思いながら、二人で他愛ないことを話した。
5日目。驚いたけど楽しかった、こっちの俺とも仲良くしてね。そう言って鏡に飛び込んだ彼。そして戻ってきたのは、待ち望んでいた臨也で。無意識に、抱き締めていた。

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