five days in mirror

□俺に大切なものを教えてくれた。
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「っや!」

どん、と鈍い音が、静雄の胸から響いた。
臨也は、無意識のうちに静雄を突き飛ばしていた。自身のしたことに気がつき、やばい、と思うも既に遅い。
ちらりと静雄を見やれば、彼は焦燥を滲ませた顔をしていた。
どうにか誤魔化さなければ。そう思い口を開くも、静雄の声が遮った。


「2日くらい前から、…臨也っぽくねぇ気がする」


どきり、と胸が激しく跳ね上がった。
ばれてる?いや、でもきっと感覚的な物だろう、きっと彼自身も半信半疑で問いかけてきている。

どきん、どきん、どきん、
高く跳ね上がる鼓動に合わせて、頭がガンガンと圧迫される。
――もしここで、「そんなことないよ」と笑えば、きっと今までの仲良しな静雄と臨也でいられる。恋人同士の二人に。

…でも。
やっぱり違うのだ。この静雄は、俺の知っている静雄じゃない。
この世界にいるべき折原臨也が、今どんな思いでいるかは知らないし、知る術もない。
…けれど、俺にとっての平和島静雄は、あの平和島静雄しかいないのだ。
短気で、横暴で、直球で、でも時々垣間見える優しさは紛れもなく飾られていない、強い強いシズちゃんしか、いない。


「俺は、君の大切な折原臨也じゃ、ないから――」

震える唇で紡いだ。
酷く我が侭だと思う。自分勝手だと思う。…でも、こうでもならなければこんな当たり前のことを知る由も無かったのかもしれない。

「…は?どういう…?」

「だから、信じられないだろうけど…俺は、別の世界から来た折原臨也なんだよ。
俺がいた世界のシズちゃんは、暴力的で人の話も聞かなくて、俺をノミ蟲って呼んだり挙句備品を容赦なく投げてくるような粗暴な奴なんだ。この世界のシズちゃんとは真逆な奴なんだよ。付き合うなんて、以ての他って程にね。
でも、俺にとってのシズちゃんは――粗暴な、シズちゃんしか…いない、んだ…」

じわり、と視界が滲んで、目の前の静雄が歪んだ。
心配そうな彼の顔が見えて、こんな表情を自分の世界の静雄も出来るのだろうか、と思う。
結局、彼のことしか考えていない。いつの間に、こんなにも愛しくなっていたのだろう。

「…本当なのか?」

「嘘吐くために泣くほど、俺は器用じゃないよ。…ごめんね、騙すようなことしてきて」

苦笑と共に涙を拭ってそう言うも、静雄は笑わなかった。
怒らせても仕方がない。彼を騙した。それに違いないのだから。
…しかし、静雄は臨也をじっと見つめて口を開いた。

「手前は、その…“平和島静雄”のことが……」

どきん、と胸が跳ね上がる。
下唇を噛み締めて、口が歪まないようにするのに、口角が震えてしまう。鼻の奥がつんとして、堪えようの無い涙が頬に軌跡を作った。


「シズちゃんに…会いたい……」


言葉にしたら愛しい気持ちが一緒に溢れて、涙になって頬を滑った。



***
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