five days in mirror

□鏡うつしの5日間は、
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「大丈夫か?」

普段は友人を気遣う言葉すら発することの無い彼から紡がれたその言葉に、臨也は思わず凍りついた。
ありえない。ありえないのだ。
喧嘩相手である自分に、そんな言葉をかけるなど。




Five days in Mirror

***

「いぃざぁやああああ!!」

「授業中だよ?静かにしなきゃ」

「黙れクソノミ蟲!殺す!!」

来神学園には、今日も怒声が谺する。授業中だと言うのに誰にも注意されないのは、折原臨也を追いかける平和島静雄が、教師にも恐れられているからだろう。
…折原臨也も、平和島静雄と対抗できる時点で畏怖対象になっていたりもするのだが。

明らかに危険なナイフを片手に、臨也は廊下を曲がると階段を滑るように駆け降りた。
階段を下った踊り場。
更に下に行こうとする臨也の目の前に、
突然、ゴミ箱が落ちてきた。
塵を撒き散らしながら目の前に滑り込んだゴミ箱に、臨也は思わず一瞬怯み足を止める。
しかし臨也の足は止まろうと、減速もせずに走り込んだために踊り場の床は臨也の靴底を滑らせる。
目の前には、踊り場に設置された姿見。

「やば…っ」

ぶつかる、と思った時には鏡は目の前。
臨也はせめてもの防御に鏡に背を向けて受け身をとると、衝撃を覚悟でぎゅっと目を瞑った。


…しかし。

どさり、と臨也は踊り場に尻餅をついた。
――痛くない。確かに目の前には鏡があって、俺は間違いなくぶつかったはずで。
そう思いながら、そっと瞼を開く。
目の前には鏡があった。そこで、不審な点に気がつく。
鏡に背を向けてぶつかったのだから、目の前に鏡があるのはおかしい。…しかも、周囲に散らばったはずのゴミは全く見当たらない。

――そこで気がついた。
鏡の映す臨也の背後に、先刻まで喧嘩をしていた平和島静雄の姿があることに。
腕が此方に伸ばされた。殴られる、と身体中の毛穴が開くほどの緊張感が走り抜けて、臨也は勢いよく振り返る。

…しかし、その腕は加速することもなく、臨也の目の前で止まった。
状況が全く理解できず、訝しげな目で静雄を見上げれば。

「大丈夫か?」



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