60万打小説

□君を殺すまで
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「そういうことだよ。だって、男同士だよ?どんなに傍にいても、男女みたいに愛情は形にならないし、周りには恋人だなんて思ってももらえない。
俺じゃシズちゃんを幸せには出来ないから…シズちゃんには、普通の幸せを築いてほしい。可愛い恋人が出来て、結婚して、子供を授かって、死ぬまで一生守りたい人と過ごしてほしい」

羅列した言葉は願っていることのはずなのに、言葉のなかにそれに相応した感情が込められない。
込められるはずがない。こんなに好きなのに、俺じゃない誰かの傍で幸せそうに笑うシズちゃんなんか想像したくない。
でも、自分の下に縛るくらいなら、きっと離れた方がいい。

小さく笑って静雄から視線を逸らす。ずっと思っていたことなのに、いざ言葉にすると酷く胸を締め付けられて。

「俺とシズちゃんが出会ったのは、運命じゃない。宿命なんだよ。…出会うしかなかった」

自らに言い聞かせるように紡ぎ出す。
――その途端、静雄の手が臨也の手首を強く握り締めた。痛みに顔をしかめるも、静雄はそれを気遣う余裕なんてないようで。

「ふざけんな…何だよそれ」

唸るような声が臨也を苛む。ああやっぱり怒った、と一人思いながら、否定も肯定もせずに笑えば、静雄の眉間に皺が寄った。怒っているのか悲しいのか、わからない表情。どちらにしろ、臨也の胸はキリキリと痛みを訴える。
静雄はその複雑な表情を崩さないまま、口を開いた。

「…手前、そんなんで俺が幸せになれるってか」

「少なくとも、一般的な幸せだと思うよ」

「俺がそんなの欲しいと思ってんのか」

「いつか欲しくなる」

だって、所詮男同士だ。お互いに愛し合っていたとしても、男女じゃない。
こんなの普通じゃない。

「俺は、シズちゃんの隣には不釣り合い」

自らに言い聞かせるように呟いた声に、静雄の目が見開かれる。
途端、握られていた手が臨也の肩に添えられ、そのまま後ろに倒れ込んだ。
大きく跳ねた鼓動。何をするのかと見上げたけれど、その瞳と重なることはなく。

「っ…」

暖かい。
静雄の腕が臨也を包み込んだ。
その背に手を回そうと伸ばした腕は躊躇われて思わず止めたけれど、臨也が静雄を抱き締め返さずともほどくことなど無いとでも言うように、静雄の腕は強く臨也を抱いた。

「シズ、ちゃ…」


「俺は手前がいい」


耳元で紡がれた声に、鼓動が一際跳ね上がった。
やめて。そんなこと言わないで。そう耳を塞ごうとする自分と、その言葉を欲していた自分とが胸中で暴れる。
何も言えずに固まった臨也に、静雄は囁くことを止めない。

「傍にいたくているのに、離れた方が幸せだとか知るかよ。そんなの、決めるのは俺だろ。
俺は他人に認められたくて、子供が欲しくて、手前と付き合ってるんじゃねぇ。手前だから付き合ってるんだ。そんなことも分からねぇのか」

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