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□切愛和音
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久しぶりに、新羅と会話らしい会話をした気がする。
弛緩剤が抜けるまで訥々と会話を交わして、それから臨也は新羅の家を後にした。
何が変わることのない池袋。
いつもと変わらず受け入れてくれる街に馬鹿らしくも安堵し、臨也はゆっくりと歩を進める。
…これで良いんだ。ごちゃごちゃしたのは好かないだろう?いい加減、自分の行動を清算したいだろう?
だから、これによってもたらされた物を悔いては見当違いだ。
どんな結果になろうとも、俺は――
「臨也」
背後から響いた、聞き慣れた低い声音。一瞬逃げ出したい衝動に駆られたのは、その声に普段の苛立ちの色が含まれていなかったからだろう。
臨也がゆっくりと振り返れば、そこにはやはり静雄の姿があった。
いつもと同じバーテン服。――しかし、その表情がいつもと違うことは明白で。
ああ、きっともう伝わっているのだ。今まで隠してきた感情は、新羅の手によって突き落とされた。
自分で決断したことに違いない。しかしその事実を目の前にすれば、胸は千切れんばかりに痛みを訴えだす。
「…何、やけに静かだね、シズちゃんらしくない」
「っ、煩ぇな…」
あまりにも普段と違う態度は、もう明らかで。
断るなら、今すぐ立ち去って欲しい。何も言わず、そのまま。
分かってるよ。喧嘩相手に恋愛感情なんか抱いた俺が悪いことくらい。
…でも、気がついたら好きだったんだ。
「――ごめんね、シズちゃん」
「…あ、何が……」
動揺した声。目を向けずとも、静雄に凝視されていることは分かる。
臨也は、その声に絞められた胸から零れそうになった雫を飲み込み、続ける。
「俺だけが勝手に好きなことは分かってる。――だから、もう良いよ。無視したって、何だって、俺は納得するから…」
臨也は、静かな声で言った。
どうせこのまま嫌われるなら、もう――
「は…!?好きって、…俺、を?」
唐突に挟まれた言葉に、臨也は肩を跳ねさせる。
――どういうことだ?
シズちゃんは分かっていない?じゃあ、新羅はシズちゃんに言っていないのか?
見詰めた静雄は到底嘘を吐いているようには見えない。嘘を吐くのが苦手な彼だから、尚更。
「…どういう、こと?」
今度は問いかけた臨也を、静雄は驚きを隠せないまま見た。
その驚嘆の表情は、動揺に変わり、悩ましく歪み、苛立ったように唇を噛み。
それから、ただじっと静雄を見る臨也を、真っ直ぐに見返した。
真剣な表情。何処か決意したような、それでいて不安を僅かに孕んだ顔で。
高鳴る胸は、次の言葉を待ちながら耳を塞ぐ。
そんな臨也を知ってか知らずか――静雄は、ゆっくりと唇を開いた。
「俺も、臨也が――」
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