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□愛してるから、
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ようやくストーカーは捕まった。臨也も色々と聴取されたが、ストーカー側が話してくれたのを事実か確認するほどに止まり、そのまま帰宅できた。

家まで臨也を送り届けた静雄は、重苦しい気持ちを引き摺っていた。
参っている臨也にここまで重たい空気を纏ったままでは余計に暗くなるとは分かってはいたものの、作った明るい声すらも上げられない。
――そんな静雄を見かねてか、臨也は微笑んで口を開いた。

「今日はありがと、助けてくれて」

「――ッ…そんな、」

胸がずきりと痛んだ。
助けたなんて、最後までされるのは防いだものの結局再び痣を作らせて、癒えかけていたはずの傷を抉ってしまったのだ。
下唇を噛み締めて俯いた静雄を、臨也は辛そうな笑みを浮かべて見た。

「シズちゃんが来てくれただけで充分、俺は救われたよ?あんな短い電話でも、シズちゃんが気付いて来てくれたんだもん。
それだけで、俺は嬉しいよ」

心底嬉しそうに言った臨也。
静雄は再び滲みそうになった涙を堪えて、細い身体を抱き締めた。
臨也からも回された腕。その手首の痛々しい痕は、消えるまで時間もかかるだろう。

許してくれるなら。
結局最後まで役に立てない俺を、笑顔で受け入れてくれるなら。

俺は、臨也に何を出来るだろう。

「ねぇ、シズちゃん」

不意に、胸に埋められた臨也の唇がそう紡いだ。
僅かに揺れた声。臨也本人が不安でなかったはずが無いだろう。なんだ、と優しく返して、臨也の次の言葉を待つ。
すん、と小さく鼻を鳴らした臨也は、震える唇を開いた。


「――あの日みたいに、して」


ぎゅう、と胸が苦しくなった。
身体を重ねることが、臨也のためになるなら。そう思い、返事をしようとすれば。

「こんなことがあると、さ。そのままシズちゃんに、…捨てられるんじゃないか、って思うんだ」

苦笑と共に紡がれた言葉。そんなはずが無いのに何を言っているんだ。
口を開こうとした途端、臨也の細いしなやかな指が、離れないで、と言わんばかりに静雄の制服をきつく握り締め。

“愛してほしいの”

囁くように紡がれた声は、酷く切なく。
――そんなの、当たり前じゃないか。

「俺がまだ、手前を愛していいなら」

こんなに愛おしくて仕方がないのに、誰が捨てるものか。
その言葉に、臨也は泣きそうにうんと小さく頷いた。



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