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□愛してるから、
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「臨也、おせぇな…」

待ち始めてから20分。静雄は溜め息と共に募る不安を吐き出した。
校内でストーカー事件に似たことが起こるとは信じたくないが、どうにも心配になる自分がいる。
着信でも入っていないだろうかと、鞄の中の携帯を探し、手にとった時だった。
携帯がブルリと震え、一瞬で止まる。
驚きに一度携帯を取り落とし、拾い上げて画面を伺えば。
折原臨也、と、書いてあった。

先生といるのに電話?しかもワン切り?
何だか妙に嫌な予感がした。電話を何度か掛け直すが、機械的な女の声が繋がらない事実を伝えるだけで。
勿論、校門にいた静雄は臨也の姿など見ておらず、校内に居るのは違いない。
静雄は校舎へ走り出した。とにもかくにも探しに行かなければ気が収まらなくて。
どうか何もありませんように、そう願いながら。

職員室に行ったものの見当たらず、教室を覗くも誰もいない。
追いかけるべき目印となる背が無いことがこんなにも不安になるのか、と速度を増す胸に思いながら、静雄は順に校内を探すことにした。

三分、五分と経過していく時間が煩わしい。
僅かな音も聞き漏らさぬように耳をそばだてて歩いていると――ふと、上階から微かに声が響いているのに気がついた。
確か、この上の階は放課後殆ど使われていない。
まさか。胸を絞られるような苦しさが走り、臨也は階段を駆け上がった。
徐々に大きくなる声は、やはり聞き覚えがある。

「臨也…っ」

しずちゃん、いや、たすけて。声は繰り返し、そう叫んでいた。
声に近付けば場所の見当は容易く。
静雄は音源と思われるトイレに駆け込むと、一番奥の閉まっている扉を無理矢理に抉じ開けた。


「シズちゃん…っ!」

届いた涙声は臨也だと物語り――その状況が芳しさとは真逆にあることを知らせた。
臨也は下着まで脱がされた状態で壁に押さえ付けられていた。
胸部は男にまさぐられ、覗く腹部には殴られたことを物語る赤い跡が付いている。首筋、内腿には小さな鬱血痕が白い肌に浮いていた。

振り返った男の片方は先刻の教員と名乗った男。もう片方に至っては見覚えなど無い。
一瞬で頭に血が昇り、静雄は爆発した感情のままに男二人を殴り付けた。
臨也の止める声に気がつくまで、何度も、何度も。
許せなかった。許したくなかった。
大切な臨也を傷付けるものなんか、この世に居るべきではないのに。

血だらけ、痣だらけになって昏睡した男を放り、臨也に駆け寄った。
縛られていた腕をほどいてやれば、紫に変色しかけた手首が露になり、泣きそうになりながら臨也を抱き締めた。
もっと早くに着いていたら。いっそ、臨也に付いていっていたら。
悔しくて、腹立たしくて、でも巻き戻せるはずもないからただただ辛くて。

「ごめん、臨也…ッ」

絞り出すように呟き、臨也をひたすらに抱き締めた。
嗚咽を溢すしか出来ない臨也は、ただ小さく首を横に振る。
こんな目に遭わせないようにと決めたのに、力だけ有り余るばかりで何の役にも立たないのか。
どうしようもなく押し寄せる激情に歯噛みしながら、静雄は零れそうになる涙を堪えた。



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