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□王子様の探した印は、
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人の波が引いた駅に着き、臨也は小さくお辞儀をした。順応している自分はやっぱり滑稽だったけれど、今だから出来ることで、今しか出来ないことなのだ。だったら、悪くないと思う。

「ありがとうございました、わざわざすみません」

「いや、俺が話したかっただけなんで」

いっそのこと、いつもこの姿で彼と会えれば良いのに。騙しているのに変わりはないのだが、それでも女装でもしなければ素直にすらなれないのだ。
それが危ない橋を渡ることだとも分かってはいるのだけれど。

「じゃあ」

再びお辞儀をして、臨也は改札へ踵を返したときだった。

「待って下さい!」

背にかけられた声。必死に引き止めようとしたのか、突然腕を掴まれた。彼の怪力のせいで手首に軋むような痛みが走り眉をしかめれば、静雄は焦ったように手を離そうとして――
ぱ、と止まった。
何事かと静雄の視線の先、手を見て、普段と変わらぬ手に僅かに安堵し…それが安堵すべきことでは無いことに気がついた。
夜目には眩しいライトに、銀色に反射する指輪。いつも人差し指に嵌めている、半ば臨也の印のようなそれ。女装しても、流石に何を言われることも無いだろうと思っていた故に外すことを怠った、欠片。
硬直した臨也へ、静雄は半信半疑な声音で問い掛けた。


「臨也…か?」


誤魔化さなければ。甘楽ですよ、と。臨也って誰ですか、と。
…なのに、思えば思うほど頭はぐしゃぐしゃになって、今言おうとしていることが正しいのかすら分からなくなる。
口が動かない。駄目だ、このままじゃ気持ち悪い奴と思われてしまう。喧嘩すらも避けられてしまう。
そんなの、いやだ。いやなのに。

「ち、が…」

気付いて欲しくなんか、無いはずなのに。

「この指輪、…臨也だろ」

似てると思ってたんだよ、素直に言えよ。何処か辛辣に紡がれたそんな言葉に、頭が真っ白になった。
もう誤魔化せないのだろう。だったらいっそ、仕事だから、と素直に話した方が良いのだろうか。

小さく、こくりと頷いた。
すると、静雄は俯く。それがどうにも居たたまれなくてとにかく弁解を図ろうと口を開くが、それは静雄の低い声に遮られた。

「…じゃあ、最初に会ったときのも手前なんだよな…?」

「、うん…」

「てことは、俺が…好きなこと――」

戸惑いを隠せないまま、再び頷いた。胸が痛みを訴え出す。
怒らせただろうか。気分が悪くなっただろうか。
でも、仕方ない。それは自分がさせたことなのだ。もうどうしようもないことで、自業自得でしか…


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