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□王子様の探した印は、
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店を出た臨也は、精神的な疲れに溜め息を吐いた。
情報は収集したし、あれだけ酒を飲ませておけば大丈夫だろう。アルコール中毒にでもなっていないかすら心配するほどだ。
取りあえず、早く帰ろう。脚が涼しいこの格好はやはり落ち着かない。
そんなことを思いながら、駅への道を行こうとした時だった。
「すみません」
唐突に背から声が掛けられた。聞き慣れた低い声。しかし、威嚇の色は全くと言って良いほどに無い。
反射的に振り返れば、やはり、
「………シ…!」
シズちゃん、で。
思わず普段の呼び方をしそうになったのをどうにか喉元で押し込み、臨也はひきつりそうな顔で笑みを繕う。
偶然に居合わせたにはタイミングが良すぎる。運が悪い。最悪だ。…会いたかったわけがない。ないのだ。
「…この前の方、ですよね」
どうにか言葉を紡ぐと、静雄は、はい、と小さく笑いながら頷いた。
普段は喧嘩早い静雄との会話で成り立っていたものがここまで穏やかだと、調子が狂うこと他ならない。
とりあえず早々に立ち去ろう。それに越したことはない。
「じゃあ、私はこれで」
そう言って踵を返そうとした時だった。
「あの!」
焦りの混じった声で呼ばれる。
思わず振り返ってしまった自分が情けなくなりながらも、何ですか、と尋ねれば、静雄は俯き気味のまま口を開いた。
「一人は危ないんで、家まで送ります」
「え…っ」
予想外な言葉に、臨也は凍りついた。
家に送るなど、素直に受け入れれば間違いなく正体がばれるだろう。それだけは勿論避けたい。
「あの、駅までなら…」
…って、おい、ちょっと。逃げたいのに、駅までなら、とはどういう了見だ。
自分の失言を呪いたくなりながらも、ちらりと見やった静雄の顔は僅かに嬉しそうな色を帯びていて、断るに断れなくなる。
…大丈夫、知られるようなことをしなければ問題ない。
「じゃあ、池袋駅まで」
そう言った静雄のぎこちない笑みはそこはかとなく可愛くすら見えて、自分が嫌になりながらも隣で素直に歩き出した。
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