15万打リクエスト
□情意サミット
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臨也が泣き止んだ頃には、既に周りは夕闇に包まれていた。
公道でこんなことをしている男も珍しいこと他ならないだろう。だが、今更そんなことを言っても遅い。
家の前まで一緒に歩き、帰ろうとすれば臨也が唐突に口を開いた。
「みっともない俺に付き合ってくれたお礼に、コーヒーくらい飲んでいく?」
家に上がらせてもらい、ソファに座った。
コーヒーを淹れて戻ってきた臨也は、一人分開けた隣に腰を下ろす。
白く上がる湯気、それにのせられて揺らぐコーヒーの香りが、沈黙と共に部屋を満たした。
何を話すわけでもなくコーヒーを啜っていればすぐに浅くなり、静雄はやりきれない気分のまま最後の一口を飲もうとカップに口を付ける。
「ねぇ、シズちゃん」
と、不意に臨也が口を開いた。
見れば、臨也は殆ど減っていないカップを机に置く。
小さく俯いた顔を、濡羽色の髪が隠した。
「何で、俺を慰めてくれたの?」
――それは、俺が一番聞きたい。
そう思うことしか出来ず返事を出来ないでいれば、臨也は続けて口を開いた。
「怒んないから、さ。どうして?
やっぱり同情?可哀想に思ったから?」
静かな問いかけに、息が詰まるような感覚がして深呼吸をした。
正直、気持ちの整理すら出来ていないのだ。ゆっくり、素直に口を開いていけば、何か分かるかもしれない。
「可哀想だとは、思うだろ、普通…
でも、同情じゃなくてよ…苦しくて、手前を打ちのめした奴等が苛ついて…
俺でよければ、傍にいてやろうと思う。落ち着くならいつでも来てやるし、喧嘩だって我慢する。泣きたいなら受け止めてやるし…」
この気持ちは何なんだ?
喧嘩相手に向ける感情なのだろうか?
臨也は、小さく頷いた。コーヒーカップに添えられた指は小刻みに震えている。
それを見つめていれば、臨也は小さな声を漏らした。
「シズちゃんは、優しいね…」
「…あ?」
「喧嘩相手にも、そんなこと思ってくれるの?シズちゃんのことだから、自業自得だろ、とか言われると思って、知られないようにしてたのにな…」
俺はやっぱり惨めだよ。そう言って上げられた臨也の顔は、酷く痛々しげに笑っていた。
居たたまれない笑顔。それが悔しくて堪らない。
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