15万打リクエスト
□情意サミット
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「帰りなよ、シズちゃん」
「……頼まれたんだから聞かないわけにはいかないだろ」
駅まででいい、と言う臨也を押しきって、静雄は新宿まで付いてきた。
どうしてだか分からないが、離れてやりたくなかった。嫌がらせだとかそんな意味ではなく、純粋に。
「…シズちゃんは、俺を馬鹿にしたいの?」
唐突に、臨也が口を開いた。意味がわからない、と眉間に皺を寄せれば、臨也は視線を足元に張り付けたまま足を止める。静雄も合わせて立ち止まった。
「そんなふうに付いてきてさ。何?リンチに遭ったこと、新羅に聞いたんだろ?惨めだと思ったんだろ?」
その顔に浮かんだ嘲笑に、静雄は奥歯を噛み締めた。
そんなわけがないのに。そんな風に思わせるためにいるんだったら、わざわざ自宅まで送ろうなんていう親切は思わないだろう。
「手前、そんなこと」
「同情ならやめてくれない?喧嘩相手に同情されても、何も嬉しくないから。
それとも、あんなの見たから動揺してるとか?別に俺は何ともないから心配いらないんだけど。」
嘘だ。そんなのは分かっていた。どんなに隠そうとしていても、その声の不安定な音色は明らかで。
「何ともないって、手前…!」
包帯の巻かれた手首を掴めば、痛みからか驚きからかびくりと肩が跳ねた。
しかし一向に顔は上げられず、静雄は締め付けられる胸の意味を探すかのように、その顎を掴むと無理矢理に視線を上げさせた。
――その顔は、泣きそうに歪められていた。
思わず固まってしまえば、臨也は居たたまれなさげに視線を逸らす。
「…なに」
「そんな泣きそうな顔して、心配しないわけねぇだろ」
臨也の唇が戦慄いた。
顎を捕まれていては顔を逸らすことも出来ず、臨也は必死に口を結ぼうとする。
その頭を撫でてやると、臨也は一層に泣きそうに顔を歪ませた。
「…泣きたいなら泣けよ。何も言わねぇから」
泣けばいいのだ。堪えるくらいなら、吐き出してくれればいい。誰に言うわけでもないのだから。
「何それ、意味分かんない…何、考えてる、の?」
ぽろ、と、赤い瞳から涙が零れ、頬に道を作った。
一度溢れれば、止まることもなく後から後から零れ出す。
顎から手を離してやれば、嗚咽を漏らしながら静雄の胸に頭を預けた。一瞬胸が煩く騒いだものの、こんな時くらいは頼りにしてくれればいい、と思えた。
「怖かった、から…っ、痛くて、もう分かんなくて、でも、助けてくれる、人、いなくて…!」
ぎりぎりと胸を締め付ける声は、酷く胸を抉る。
もし、自分がその場に居合わせたら助けられたかもしれないのに。
「優しく、しないでよ…泣いちゃうじゃん、か…」
間断なく零れる嗚咽。思わず抱き締めた肩は震えていて、今更その身体の脆さを認識してしまう。
肩口から聞こえるくぐもった声を聞きながら、静雄は溢れてくるやりきれない苦しさの意味を探して瞼を閉ざした。
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