敏腕アルバイターの受難

□1
2ページ/2ページ


「やっぱり俺が出て良かったよ。いいもの捕まえた」

爽やかな笑顔でそうのたまった奴は、私をひょいっと部屋の中に放り出した。ピザを落としてはいけないと反射的に庇ったら顎を強かに打ってしまった。地味に痛い。

「もう嫌だ疲れた帰りたい」
「ワォ、マイナスな思考だだ漏れだね」
「スパイですね10代目!俺が果たしましょうか?」

イキイキとダイナマイトを取り出す銀髪を制して、奴は革張りのソファーに腰掛けて私を楽しそうに見た。

「獄寺、こいつの顔よく見てごらん」
「顔、ですか?……っ10代目、こいつまさか!」
「うん」
「月刊世界の謎と不思議で噂のドッペルゲンガーですね!?」
「「ちげーよ」」

思わず私も突っ込んでしまった。おい、頭弱すぎるぞ嵐の守護者。

「む!極限判ったぞ!沢田は、この女が今ボンゴレで噂になっている幻の姉なのではないかと、そう言いたいんだな!」
「そのとおり。昔と違って了平さんは見違えるほど進化しましたね、脳味噌」
「そ、そうか?照れるな」
「あんた今さりげなく貶されたんだよ。気付けよ」

びしりと裏手で突っ込む。奴の守護者はおバカが多いらしい。
ボスの苦労を哀れんでいると、変な頭をした男が近付いてきて面白そうに目を細めた。

「それで…君は本当に沢田綱吉の姉なんですか?」
「HAHAHA人違い人違い。無邪気にピンポンダッシュしてたら捕まっただけです」
「そこ、見えすいた嘘をつくんじゃない」
「クフフ…君とは気が合いそうだ。今度一緒にヴァリアー邸へピンポンダッシュしに行きませんか?」
「実にハイリスク&ローリターンって感じですね」
「尻拭いをするのは俺だってことを忘れんなよパイナップル。減給するぞ。……とまぁ冗談はこれくらいにしておいて」
「長い前座だったね」
「雲雀さんが止めてくれたって良かったんですよ」

深いため息を吐いて、奴はこちらを見つめた。ぴり、とした空気が流れる。茶化して誤魔化せるような雰囲気ではない。私はゆっくり立ち上がって腰に手を当てた。全く、ため息を吐きたいのは此方のほうだ。

「…血縁関係上姉か姉じゃないかと言われたら、私はたしかに君の姉だよ。沢田綱吉」

その言葉に息を呑む守護者数人、楽しそうに笑う守護者数人。当の本人は僅かに困惑の色を目に宿すのみで、無表情のままだ。

「…貴女が此処に来た時、俺の超直感が囁いた。このボンゴレファミリーに無くてはならない人間が来たって。貴女が俺の姉であることだって疑うつもりはない。だが、どうして今更…」
「勘違いするな、沢田綱吉」

私はぴしゃりと言葉を放った。半ば睨み付けるように彼を見つめる。

「君が生まれた時、私は『沢田』の名前を捨てた。君が今日私と会ったのは全くの偶然。本当なら一生出会うことは無かった。…私は、君を私の弟だと思ったことは一度も無いよ」

私の強い言葉に、奴はぴくりと眉を動かした。銀髪から強い殺気を感じる。…なんだか悪役っぽいな、私。

「ま、それでも詳しいことを知りたければ、ツルハシ野郎にでも聞くんだな。答えるかどうかは保証しないけどね」

そう言って私は彼らに背を向けた。ピザを机に投げ置くことも忘れない。この際代金には目を瞑っておいてやろう。

「それじゃ、さようなら」

ヒラヒラ手を振って、振り返らないまま扉を閉めた。内心舌を出す。ここまで言っておけば自ら関わろうとはしないだろう。念のため、バイト先を変えておくか。












(次はホテルマンでもやるかな)

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ