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□朱色の回転木馬
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キィ、と
風に吹かれて錆びたブランコが揺れた

生まれてこのかた、施設以外の遊戯室に踏み入れたことのない私にとって、『遊園地』と言う場所は想像の産物に等しかった

けれど、こうして実際に訪れてみると実在していたことを見に染みて感じた

ただし
もう随分長いこと、この場所は『遊園地』としては機能していないようだけれど
いや、正確にはもう、機能しない。というのが正しいのかもしれない

いやに広大な敷地
町の喧騒はとどかない
ひっそりと錆び付いたさみしい廃墟

パキリ、と
何か遊具だったものを踏みつけながら歩き進めると、くすりとその場に似つかわしくない澄んだ女性のひそめるような笑い声が響いた

『ようこそ、ドリームワールドへ』

ふんわりとした金髪の巻き毛
絵に書いたようなフランス人形のような容姿の彼女を私は知っていた

『入場料金はいくらですか』

『そんなもの、いらないわ』


きぃ、と
彼女の腰かけた木馬がちいさな悲鳴を上げた


『何をしに?あなたもユメをみにきたの?』

『…』

『あいにく、ここにはもう私しかいないわ』

『知っています。だから来ました』

『あら。でも私は口説かれないわよ?彼を裏切りたくはないもの』

くすくすとおかしそうに笑う彼女は軽く身をよじった
その時、彼女のワンピースの裾から覗いた白い足首に生々しく残る傷痕と、肉の無い病的に骨ばった脚が覗いた

『…』

『むだよ』

一瞬、とても冷たい瞳が私を射ぬいた
ぞくりと背筋に走る何か
無意識に後ずさると、彼女はにこりと笑った

『あなたにはできない』


ひらりと木馬から降り、よろよろとおぼつかない足取りでどこかに消えていく彼女の背中を見つめた
『あしたも、また来ます』





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