Other

□牙
1ページ/1ページ


「私って、変態なのかな」

「…いきなり何なんですか」


となりのベッドに横たわる彼女は、そう問い掛けるとくすくす笑いだした

「隣にいるエルは裸で私も裸」

「まぁ…そりゃ」

事後ですからね

とつぶやけば彼女は大爆笑。今の下りに何かおもしろいところがあっただろうか
意味不明だ
彼女の言葉や行動は、いつも私を混乱させる

「だからね、私とエルはそんな関係なのよ」

「そうですね」

「一つなの私たちは。肉体的にはね」

彼女の表情から感情は読み取れない
声色だけはひどく楽しそうで
噛み合わないそれにひどく違和感を感じた

「こうして抱き合って、キスをしたりするのは最高に気持ちいいわ」

「あなた、」

「心なんかいらないわ」

彼女は笑っている
きっと心から

「邪魔なだけだもの」

恐怖すら感じた
彼女の言葉に嘘偽りはまったく感じられなかった

彼女のひとみはまっすぐに私を映し出す
こんなにも透き通って美しいそれに見つめられているというのに、なぜ私はこんなにも

彼女を
恐ろしく思うのだろう


「もう一度しましょうよ」

彼女が私に覆いかぶさり、右口角をあげて、するりと口元を撫でる

怖い、怖い
彼女はなんだ
人間なのか

「愛しているわ、エル」

その時、腹部に強烈な痛みを感じて、むせ返った
刺されたのか?いや、違う
ズキン、ズキン
痛い
痛い

彼女の唇が私の唇と重なったとき、苦い何かを感じて
それが血液の味にひどく似ていて
そうして私は意識をゆっくりと落としていく

そうか
こんなにも恐ろしいのは


心を殺したはずの心が
愛してほしいと軋んでいたから



(どうか殺して)
(はやくその無機質な牙で)




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ