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□俺と彼女と白い鳥
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「あ、鳥だ。」
窓を指差す彼女の指の先には、一面の青を進む一つの白。
「…もがいてる」
「は?飛んでるだけじゃん」
「もがいてるよ。あの鳥は帰るところがないから。自分の望む帰るところがないって、カワイソウだと思わない?自由がないもの」
真顔で言う彼女の言葉は、ヘンだ。
だって、
「…鳥は自由だ。いつだってどこへでも飛んでいける。鳥籠から出られない奴よりよっぽど自由だ」
彼女は俺を真っ直ぐ見上げると、心底不思議そうにきょとん、と首をかたむけた。
「君は鳥籠から出る勇気がないだけでしょ。だって君は、親鳥に反発しながらも結局は庇護してもらってることにも気付かない可愛い雛鳥だもんね」
ふと、小柄な彼女の首筋に真新しい痣が見えた。よくよく見てみれば、他の女子に比べて少し長めのスカートから伸びる白い太ももにも、やっぱり殴られた痕跡。とっさに、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に襲われる。
「何言ってんの?さっきから。ヘンな奴」
馬鹿みたいに、声が震えた。今、俺はきっとひどい顔してる。
「ね、守ってもらうって…親って、どんな感じ?君は、望まれて生まれてきたの?」
そう聞いてきた彼女の瞳が、少しだけ揺らいだ気がした。
俺と彼女と白い鳥
(できれば、いわゆるフツウの家庭に生まれてみたかったなんて、ね)
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