少年はいつもふわふわの銀髪を揺らしながら花飾りを編んでいた。星々の灯りを散りばめた夜空の下に広がる花畑の中、そびえたつ大樹の枝に抱かれて。 彼は編み目が見えなくなる程大量の花を丁寧に隙間なく編み込んでいく。編み込みに使っている糸は細く、角度によって虹色に輝いていた。 「君の大切な花飾りはできたかい、サンダルフォン」 大樹の天辺から高い声が降ってきたのを聞き、少年は顔を上げた。 「メタトロン!!もう少しだよ、ほら!!」 「綺麗だね」 サンダルフォンと呼ばれた銀髪の少年が大きな花飾りを掲げて見せると、メタトロンという少年は樹からふわりと花畑に降り立った。 「メタトロン、おとうさまはお元気?」 「お元気だよ、サンダルフォン。君もこの間お会いしたじゃないか」 メタトロンは少し前屈みになり、自分にそっくりな少年の顔を覗き込む。 「……うん。だけど直接お顔を合わせられるのはメタトロンだけだもの」 サンダルフォンはそう言うと双子の兄を見上げた。銀髪の彼とは違う、燃えるような真っ赤な髪と瞳。36対もの羽を背中に生やし、その身は世界の宝物全てを集めたような飾りに被われている。 メタトロンこそ神に次ぐもの――最近になって、そう囁かれ始めたのも無理はない。ルシフェルでもミカエルでもなく、ましてやベリアルでもない。もっとも、ベリアルは疾うの昔に地に堕ち、その原因となったルシフェルは混沌を身に宿したまま行方不明なのだから権力者としての資格など既に消滅している。 メタトロンは何も答えず目を優しげに細めながら弟の頭をそっと撫で、ばさりと羽を広げた。 「……主がお呼びだから僕は行くよ。花飾りが早く完成しますように」 そう言うなり彼の姿はあっという間に見えなくなってしまった。まるで炎が燃え上がり一瞬で消えたような熱風だけを残して。 「あ……」 風が和らぐ頃、サンダルフォンは星がひとつ天から落ちるのを見た。そして同時に、花飾りを編むための糸に闇色が混じったのを。 「……混沌……また邪魔された」 人間たちの祈りで紡がれるその糸に、余計なものが混じるのはこれが初めてではない。それは混沌の一部であり、それが混じる度に彼の花飾りは台無しとなる。 chain-連鎖- そしてそれはきっと、神と混沌の不毛なせめぎ合いの連鎖の縮図である。 |