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□鶴の恋
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 くりっとしたつり目、白い肌、赤いふっくらした唇、漆黒のさらさらの髪。笑うと八重歯がちょっと覗く。鼻は少し低くて額が広い。麗鶴は、だいたいそんな感じに育った。どちらかといえば母親似。
 あまり病気もせず、兄たちに可愛がられながら彼女は幼少時代を過ごした。

 一番上の兄とは年が十五ほど離れているので、ものすごく面倒を見てもらっていて、麗鶴のほうも兄たちが大好きでいつも引っ付いていた。

 だからだろうか、彼女は当時から男の子のような衣服を好み、木の枝を剣に見立てて振り回したり、とにかくいろんなところに男の子っぽさがにじみ出ていた。そして、気付いた時には兄弟一を誇る暴れ馬(?)となっていた。

 このままではいかんと思ったのだろう、ダンディな父王は娘にぴったりの婚約者をつくり、恋をさせてみてはなどと画策し始める。
 恋をすればきっと女の子っぽくなるはず、母親もそうだったのだからと信じて疑わない父。あちこち捜して、いつの間にかめぼしい貴公子の名を列ねた長いリストが出来上がっていたのだった。

 この時麗鶴は十歳。彼女の当時の夢は、強くてかっこいい剣士。男勝りに拍車をかけていた。口癖は、「剣士になって母さまを守ってあげる!」だった。

 そして時は流れ、麗鶴は十五の誕生日を迎えた。

 娘の誕生日ということで、王は国をあげて式典でもしようかと思っていたが、主役の麗鶴が「そんなことに税金使わなくていい(めんどくさいし)」と辞退したため、式典は身内だけのささやか、といっても料理などは豪華な宴会になった。

 この日の彼女は、いつもの男装でなく、豪華な絹のひらひらした可愛らしいいでたち。長い髪はきれいに結われ、花飾りや簪をつけている。もともと母親似なので、こうしてみると中身はともかくとても可憐なお嬢様っぽい。

「いつものリツも可愛らしいけど、」

 すぐ上の兄、宵藍(しょうらん)がくすくす笑いながら妹を誉めた。

「やっぱりそうしてたほうがもっと可愛らしいよ」
「宵兄さま、からかわないでください」

 麗鶴は頬を膨らませる。裾が長いので、さっきから歩く時に踏みまくり、その都度転びそうになっている。故に不機嫌だ。こんなびらびら、引き千切ってやりたいとさえ思っている。

「いいえ、本当に可愛らしいわ!!」
 王妃はご機嫌。
「やっぱりあなたは女の子だわ!!桃色がよくお似合いよ」

 麗鶴の衣装を選んだのは王妃。
 常々娘にきれいな衣装を着せたいと画策していたのに今まで着てくれなかったのに、今日は一応着てくれたので大喜びなのだ。

「明日からも着てちょうだいね、萌黄色とか緋色とか、いろいろ用意しているのよ」
「…」

 母親をがっかりさせたくないが、素直にはいとはいえない彼女。正直、もう勘弁してほしい。

「ほら、お返事」

 兄に促され、しぶしぶうなずく。明日からのことを考えると頭が痛いが、しかし麗鶴は単純で、いつもより数段豪華でおいしい料理にすっかり夢中。
 麗鶴に爆弾が落ちるまで、あと半刻。


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