溢れる血が土を、剣を、彼の手を濡らしていく。彼はその強い臭いにはっとし、目の前の光景に声を無くした。 ――カミゴロシ 何かが耳元で囁く。 ――神殺し ――同族殺し 食物の女神が、血を流して倒れている。彼が、剣で斬りつけたから。 (おれがこのひとを、ころした…) 彼は自分のした行為の恐ろしさに今更気づく。けれどもう遅い。彼は狂ったように泣き叫んだ。そのとき、心の片隅に妙に冷静な自分がじっとこちらを窺っているのに彼は気付かなかった。 ――血に濡れた。夜闇の王が血に穢れた 闇の眷属が泣き叫ぶ少年を取り巻き、哄笑した。 高天原から使者が来るまで彼は血にまみれたまま女神にすがって泣いていた―― |