薄/桜/鬼

名前で呼んで
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斉藤さんと一緒に斗南へ来て、数週間、私達は小さい一軒屋を借り、少しづつ、落ち着いた生活が出来るようになってきていた。

その、ある日の雪が積もる夜、私は、少し破れていた着物があったので、自室で繕っていた。


「千鶴。」
私は、名前を呼びながら自室の障子を開けて入って来た斎藤さんを見た。

「斎藤さん、どうかしましたか?」

「いや・・・、どうと言った理由は無いのだが・・」

ちょっと照れくさそうに言う斎藤さんがなんだか可愛くて、つい、くすくすと笑ってしまう。

「私が居なくて、寂しかったですか??」

「・・・なんとなく、な・・・。」

恥ずかしそうにしながらも、私の隣に座って話題を出そうと考えている様子を見て、なんだか、ふいに笑顔になってしまう。
繕いの続きをしていると、斎藤さんはこんな事を言ってきた。

「斎藤、と言うの、止めないか?」

「・・・・え?」

どういう事なのか分からなかったので針を持っていた手を止めて、斎藤さんの方に向いた。

「・・苗字は止めて、『一』にしないか?」

「・・・あ。」

いままでずっと『斎藤さん』と呼んで居たから変わらずに呼んでいたのだが、流石に恋人同士になってまで苗字は違和感があったのだろう。

でも・・・、急に名前で呼ぶのは・・・・・、恥ずかしい。

「・・・千鶴?」

恥ずかしかったので色々考えていたら、言葉を発しない私に気になったのか、斎藤さんは聞いてくる。

「えっと・・・、どうしても、ですよね?」

ちょっと赤面しながら私が聞くと、斎藤さんはちょっと悲しそうに少し下を向く。


「・・・・駄目か?」




ず、ずるい・・・・・・!!!
そんな顔されたら、言わないと私が悪いみたいじゃないですか・・!!

やっぱり、誘惑には耐えられなかった私は覚悟を決めて、その名を呼ぶ。

「・・・・一、さん?」



「・・・よし。」

なんて言いながら私の頭をぽふぽふ撫でてくれるもんだから、嬉しくて仕方が無い。

その後も、寝るまでの間、二人寄り添って、他愛無い話をたくさんした。


少し開いた窓からは綺麗な雪がゆっくりと振り続けていた。







私は今、一番幸せです、一さん。


(END)

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