†カミツレの花壇†


□《心休まる場所》
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その日のバディは久しぶりに郁と組んだ。
仕事中は恋仲でも公私混同はしないよう、郁にも言い聞かせているがコイツ自体も嬉しそうだ。
思わずにやけそうになる顔を必死に戻し、二階へと続く階段を返却図書を抱えて登っていた時だった。


「きゃぁぁぁ!?」


少し先を登っていた郁が、階段を滑るように落下して来た。
「郁っ!!」
反応が遅れ受け止められず、郁は踊場に全身を打ちつけていた。
慌てて郁の様子を見たが気を失っている…。
だが刺さる様な視線を感じ、二階の階段を見ると一人の女性が背を向ける時だった。
「堂上から、小牧・手塚両名へ!!笠原が何者かに階段から突き落とされた!!怪しい人物は女!!黒のショートヘア・モスグリーンのコートに白のフレアスカート!!他の隊と連携とって捕まえくれ!!現在より堂上班の指揮は小牧に一任!俺は笠原を病院に連れて行く!」
通信機を通し、小牧と手塚に連絡。
'了解!!'と聞こえたところで通信機を切った。
急いで病院へ!!そう思い、笠原を抱きかかえ早急に車を借りて病院へ車を走らせた。


「外傷はありません…。ただ打ち所が悪かったのか、脳が眠った状態に入っています。」
「眠った…状態?」
医者の言葉に愕然とした…。
確かに外傷が無いのは、喜ぶべき事かもしれない…。
郁が無意識だが、傷付かないように体を庇った証拠だ…。
だが、頭は強打するところを自分も見ている…。
最悪の展開が脳裏をかすめ、全身の血の気がザッと下がる気がする。
「もう…目覚めないんですか…?」
震える声で医者に問いかけた…。
目覚めて欲しい…。郁に側で笑って居て欲しい…。
やっと手に入れた……自分の大切な者を助けたいと思った。
「…目は覚めるでしょう。…ただ、もしかすると記憶が無かったり、こちらの言葉に反応しない様な症状が出てくるかも知れません。」
その言葉に、ほんの少しでも希望が有るとオレは思った。
「…笠原を、お願いします。何か変化が有れば私の携帯へ連絡下さい。」
頭を下げ、医者に郁を任せた。
悔しいが、自分は医学のプロではない。
医者に任せる他、自分に出来る事は無いのだ。

「……絶対に許さん。」

低い声が病院のロビーに消えて行った…。


「すまん堂上。」
「すみません堂上二正。」
図書基地に戻ると小牧と手塚、犯人の捜索に当たってくれたであろう連中に頭を下げられた。
「…見つからなかったんだな?」
「あぁ。…笠原さんの方は?」
小牧も手塚も心配だったのだろう。
犯人を確保出来なかった事が、悔しいのがよく伝わってきた。
「いずれ意識は取り戻すはずだ…。まだいつ戻るかはハッキリしない。」
グッと握り込んだ手のひらに爪が食い込む…。

「…犯人はまた図書館に来る。絶対だ。」


その時が…。


「犯人引きずってでも、笠原に謝罪させてやる…。」
その日から、プライベートでの堂上の顔から'笑顔'が消えた。
 
 
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